・・・ うまかったな、網野さんはなかなかうまい、と百花園のお成座敷の椽でお茶を飲みつつ更に先夜の笑いを新にしたのだが、その時網野さんのユーモアということが、作品にもつづいて私の頭に浮んで来た。「皮と身と離るゝ体我持てば利殖の本も買ふ気にな・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ 友代の情熱、ユーモア、人間らしい親しみは、いずれも人柄として演じられて成功をおさめているというところも、以上のこととの関連で、芸術上の問題として興味がある。演じいかされているために、脚本にあるそういう本質の課題がつきつめられぬまま・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・トルーマン大統領の敵手であった共和党の候補者デューイ夫妻の意外さと、ギャラップその他の世論調査所の人々の長い顔とは、一九四八年の世界のユーモアとなった。最も真面目な教訓の一つでもあった。汗顔の至り、という東洋の適切な形容のことばを我身にひき・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・そして何となく、そこにあわれのこもったユーモアもある。そうして、幸運の手紙を廻り出させる世の中のありようを保管しておく紙袋はどこにあるとも思えないのだろう。〔一九三九年八月〕 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・ 章子と東京の袋物の話など始めた女将の、大柄ななりに干からびたような反歯の顔を見ているうちに、ひろ子は或ることから一種のユーモアを感じおかしくなって来た。彼女はその感情をかくして、「一寸、あんたの手見せてごらんなさい」と云った。・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・至極尤もなので、私は笑い出し、心の中で、これでは貴方だってふーむと仰云るしか返事があるまいと、或ユーモアを感じるのです。全くそうらしいの。持つ迄持つということは、つまり私は生きていられるだけ生きていられるということで、私が持ち前のたっぷりや・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・植込みや泉水のある庭のあちこちを動いたり、その庭に向っている縁側を男や女の小人が考えたり、話したりして、彼らの人生をまじめにいそしんでいる姿が、宇野浩二一流の描写力で哀れにもユーモアにみちて描かれていた。「文学者御前会議」は、宇野浩二の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 今日物わかりのよいとされている女の先生などでも、その生活への感情は案外にひ弱くて、所謂いい生活というものの絵図が水っぽいきれいごとだけで、塗りあげられていて、子供の心が直感した生活のそんなユーモアもわからないということが一つ。 子・・・ 宮本百合子 「子供の世界」
・・・一頁をいくつにも区切って、新聞の絵の一コマの狭さのものがそのまま、ただびっしり詰められてあるきりで、ゆったりと心持ちよい線で描き出されたフクチャンを子供らに見せてやろうという愛の配慮やユーモアはないのである。 児童のための良書ということ・・・ 宮本百合子 「“子供の本”について」
・・・と一味通じて更にそれを、封建時代の日本ユーモア文学の特徴である我から我頭を叩いて人々の笑いものとするチャリの感情に絡んだ気分のあらわれであった。鬱屈や自嘲がこういう庶民的な笑いかたの中に、日本らしい表現をもったのであった。 このことは、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫