・・・ 誰かがあいていた神戸の上へ十円載せると、呶鳴っていた男は俄かづくりのルーレットの針を廻す。針は京都で停る。紙の上の十円札は棒でかき寄せられ、京都へ張っていた男へ無造作に掴んだ五枚の十円札が渡される。「――さアないか。インチキなしだ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・堅実に、堅実に、耐乏して生産復興と云われ、勤労者はその気で生きている傍で踊子たちが宝くじのぐるぐる廻るルーレットを的に矢を射ている。しかし、きょう勤労するすべての人に企業整備の大問題が迫っている。税の問題がある。 社会のこういう矛盾と撞・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・○彼の二重性格者たる彼の生存の根本意志を象徴的に示すものとしての賭博ルーレットの赤と黒○「いたるところ、何事によらず、生涯私は限界をのりこえた」神と悪魔とに緊張せしめる、○ドストイェフスキーは決して規範を求めず、ただ充実をもつの・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
どこかで計画しているだろうと思うようなこと、想像で計り知られるようなこと、実際これはこうなる、あれはああなると思うような何んでもない、簡単なことが渦巻き返して来ると、ルーレットの盤の停止点を見詰めるように、停るまでは動きが・・・ 横光利一 「鵜飼」
出典:青空文庫