・・・「――ちゃんと、ケージのロープまで、もとの継いだやつにつけ直しちゃったんだよ。」「今日こそ、くそッ、何もかも洗いざらい見せてやるぞ。」「何人俺等が死んだって、埋葬料は、鉱車一杯の鉱石であまるんだから、会社は、石さえ掘り出せりゃ、人間・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・あらかじめロープをもって銘の身をつないで、一人が落ちても他が踏止まり、そして個の危険を救うようにしてあったのでありますけれども、何せ絶壁の処で落ちかかったのですから堪りません、二人に負けて第三番目も落ちて行く。それからフランシス・ダグラス卿・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・ 源吉はズブ濡れの身体をすっかりロープで縛られていた。そしてその綱の端が棒頭の乗っている馬につながれていた。馬が少し早くなると逃亡者はでんぐり返って、そのまま石ころだらけの山途を引きずられた。半纒が破れて、額や頬から血が出ていた。その血・・・ 小林多喜二 「人を殺す犬」
・・・ 彼は、ロープに蹴つまずいた。「畜生! 出鱈目にロープなんぞ抛り出しやがって」 彼は叱言を独りで云いながら、ロープの上へ乗っかった。 ロープ、捲かれたロープは、……… どうもロープらしくなかった。「何だ!」 水夫・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・助手はマニラロープを持って、囲いの中に飛び込んだ。豚はばたばた暴れたがとうとう囲いの隅にある、二つの鉄の環に右側の、足を二本共縛られた。「よろしい、それではこの端を、咽喉へ入れてやって呉れ。」畜産の教師は云いながら、ズックの管を助手に渡・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
出典:青空文庫