・・・これはその前のこと、そうやって祖母が出て来ると、お土産にきっとお金をくれた。一円くれるのであった。「おら田舎婆さまで今時の子供は何が好きか分らないごんだ。お前好きなものこれで買え」 その一円は五十銭の銀貨二枚か札かであった。母は子供・・・ 宮本百合子 「百銭」
・・・財産税について見れば二万円を限度としているらしいが、今日の金で二万円といえば、一円が十倍になっているとして二千円の実価に過ぎない。二千円と換算しなくても、日本の農家はこの数年間に経済事情を一変させた。二万、三万の現金を持っている農家は少くな・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・そして、戻るとき戸棚の抽出しから白紙を出して、一円包んで出て来ると安次に黙って握らせた。「あかんのや、あかんのや、もうそんなことして貰うたて。」と安次は云って押し返した。 しかし、お留は無理に紙幣を握らせた。「薬飲んでるのか?」・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫