・・・欣弥 一別以来、三年、一千有余日、欣弥、身体、髪膚、食あり生命あるも、一にもって、貴女の御恩……白糸 (耳にも入撫子 (身を辷らして、欣弥のうしろにちぢみ、斉しく手を支白糸 欣弥 暑いにつけ、寒いにつけ、雨にも、風に・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・と現われたのが、一別以来三年会わなんだ桂正作である。 足も立てられないような汚い畳を二三枚歩いて、狭い急な階子段を登り、通された座敷は六畳敷、煤けた天井低く頭を圧し、畳も黒く壁も黒い。 けれども黒くないものがある。それは書籍。 ・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・もうおおぜい客が来ていて母上は一人一人にねんごろに一別以来の辞儀をせられる。自分はその後ろに小さくなって手持ちぶさたでいると、おりよくここの俊ちゃんが出て来て、待ちかねていたというふうで自分を引っ張ってお池の鯉を見に行った。ねえさん所には池・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
出典:青空文庫