・・・屹となって、さあ始めやがった、あン畜生、また肋の骨で遣ってるな、このままじゃ居られないと、突立ちました小宮山は、早く既にお雪が話の内の一員に、化しおおしたのでありまする。 その場へ踏み込み扶けてくりょうと、いきなり隔の襖を開けて、次の間・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・配下の一員は親切に一時間と経ない内に来るからと注意してくれた。 かれこれ空しく時間を送った為に、日の暮れない内に二回牽くつもりであったのが、一回牽き出さない内に暮れかかってしまった。 なれない人たちには、荒れないような牛を見計らって・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・それ以来、文戦の一員として今日に到っている。短篇集に、「豚群」と「橇」がある。 黒島伝治 「自伝」
・・・ぼくが帰国したとき、前年義姉を失った兄は、家に帰り、コンムニュスト、党資金局の一員でした。あにを熱愛していたぼくは、マルキシズムの理論的影響失せなかったぼくは、直に共鳴して、鎌倉の別荘を売ったぼくの学費を盗みだして兄に渡し、自分も学内にR・・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・世の多くの飼い主は、みずから恐ろしき猛獣を養い、これに日々わずかの残飯を与えているという理由だけにて、まったくこの猛獣に心をゆるし、エスやエスやなど、気楽に呼んで、さながら家族の一員のごとく身辺に近づかしめ、三歳のわが愛子をして、その猛獣の・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ 智能の世界においての貴族である彼は社会の一員としては生粋のデモクラットである。国家というものは、彼にとってはそれ自身が目的でも何でもない。金の力も無論なんでもない。そうかと云って彼は有りふれの社会主義者でもなければ共産党でもない。彼の・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・ここで第三者たる観客はまさに起こらんとする活劇の不安なしかも好奇な期待に緊張しながら、交互にあちらを見たりこちらを見たりして、そうして自分も劇中の一員となってクライマックスへの歩みを運んで行くのである。そうしてこの場面にもまた背景となる音楽・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そういう批判などはどうでもいいが、私はこの煙突男の新聞記事を読みながら、ふと「これが紡績会社の労働者でなくて、自分の研究室の一員であったとしたら」と考えてみた。ともかくもだれのまねでもない、そうしてはなはだ合目的なこの一つの所行を、自分の頭・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ための運動委員が選ばれた時、自分もその一員にされてしまった。そうしてそのためにもう一人の委員と連れ立って始めて田丸先生の下宿を尋ねた。当時先生の宿は西子飼橋という橋の近くで、前記の化学のK先生と同宿しておられた。厳格な先生のところへ、そうい・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ための運動委員が選ばれた時に、自分も幸か不幸かその一員にされてしまった。その時に夏目先生の英語をしくじったというのが自分の親類つづきの男で、それが家が貧しくて人から学資の支給を受けていたので、もしや落第するとそれきりその支給を断たれる恐れが・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
出典:青空文庫