・・・彼等のある一団は炎暑を重く支えている薔薇の葉の上にひしめき合った。またその一団は珍しそうに、幾重にも蜜のにおいを抱いた薔薇の花の中へまぐれこんだ。そうしてさらにまたある一団は、縦横に青空を裂いている薔薇の枝と枝との間へ、早くも眼には見えない・・・ 芥川竜之介 「女」
・・・光を失ったヘラクレス星群も無辺の天をさまよう内に、都合の好い機会を得さえすれば、一団の星雲と変化するであろう。そうすれば又新しい星は続々と其処に生まれるのである。 宇宙の大に比べれば、太陽も一点の燐火に過ぎない。況や我我の地球をやである・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・その祈祷の声と共に、彼の頭上の天には、一団の油雲が湧き出でて、ほどなく凄じい大雷雨が、沛然として刑場へ降り注いだ。再び天が晴れた時、磔柱の上のじゅりあの・吉助は、すでに息が絶えていた。が、竹矢来の外にいた人々は、今でも彼の祈祷の声が、空中に・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・夕空にむらむらと嶽の堂を流れて出た、一団の雲の正中に、颯と揺れたようにドンと一発、ドドド、ドンと波に響いた。「三ちゃん、」「や、また爺さまが鴉をやった。遊んでるッて叱られら、早くいって圧えべい。」「まあ、遊んでおいでよ。」 ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・……またここにも一団になっている。何と言う虫だろう。」「太郎虫と言いますか、米搗虫と言うんですか、どっちかでございましょう。小さな児が、この虫を見ますとな、旦那さん……」 と、言が途絶えた。「小さな児が、この虫を見ると?……」・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・か、何か、哄と吶喊を上げて、小児が皆それを追懸けて、一団に黒くなって駆出すと、その反対の方へ、誰にも見着けられないで、澄まして、すっと行ったと云うが、どうだ、これも変だろう。 横手の土塀際の、あの棕櫚の樹の、ばらばらと葉が鳴る蔭へ入・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・いつでも非常なよい声で唄をうたって、随所の一団に中心となるおとよさんが今日はどうしたか、ろくろく唄もうたわなかったからして、みんなの統一を欠いたわけだ。清さんや清さんのお袋は、またどうしたかごきげんが悪いや、珍しくもない、というくらいな心で・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・図は四条の河原の涼みであって、仲居と舞子に囲繞かれつつ歓楽に興ずる一団を中心として幾多の遠近の涼み台の群れを模糊として描き、京の夏の夜の夢のような歓楽の軟かい気分を全幅に漲らしておる。が、惜しい哉、十年前一見した時既に雨漏や鼠のための汚損が・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・金色にまぶしくふちどられた雲の一団が、その前を走っていました。先頭に旗を立て、馬にまたがった武士は、剣を高く上げ、あとから、あとから軍勢はつづくのでした。じいさんは、いまから四十年も、五十年も前の少年の時分、戦争ごっこをしたり、鬼ごっこをし・・・ 小川未明 「手風琴」
・・・ やがて、みんなが、一団となって、ペスをさがしにゆきました。その中に、小さい政ちゃんもはいっていました。 橋のところから、ペスのいったという、道を歩いて、原っぱへ出て、半分は、散歩の気分で、愉快そうに話しながら、足の向く方にあるいて・・・ 小川未明 「ペスをさがしに」
出典:青空文庫