・・・また一方においては西欧のユーモアと称するものにまでも一脈の相通ずるものをもっているのである。「絞首台上のユーモア」にはどこかに俳諧のにおいがないと言われない。 風雅の精神の萌芽のようなものは記紀の歌にも本文の中にも至るところに発露してい・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・道楽として、心がけている日本楽器の沿革に関する考証は自然に世界各地の楽器の比較に移って行く、その途中で、遠くかけ離れた異種民族の楽器が、その楽器としての本質においてのみならず、またその名称においても、一脈の連鎖によって互いにつながっているら・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・葉末から滴り落ちる露がこの死んだような自然に一脈生動の気を通わせるのである。ひきがえるが這出して来るのもこの大きな単調を破るに十分である。夜の十二時にもならなければなかなか陸風がそよぎはじめない。室内の燈火が庭樹の打水の余瀝に映っているのが・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・ティシズムと地方的な色の濃い描写とで描き出された江波という若い娘の矛盾錯綜してゆくところを知らない行動と情感が、ある意味で、所謂人間性の無制約な肯定として現れている当時のヒューマニズムの傾向に相通じる一脈をもっていたからであったと思う。「麦・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・描かれる美しい婦人と、描く聰明なレオナルドとの間に、いつか流れ合う一脈の情感がなかったという方が不自然である。モナ・リザは彼女の感覚によってレオナルドの知性を感じとり、レオナルドは彼のあらゆるデッサンにあらわれているあのおそろしいような人間・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・などつづけて作品が発表されるに至ったのは、以上のように純文学の新生を期しながら、作家たちの実生活、創作活動は依然として非生産的な雰囲気のうちに低迷していた折から、一脈新鮮な息づかいが、文壇的には新人であっても、すでに何年か小説をかいてきてい・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 兎に角、相互の間に、一脈の疎通が出来た今になっても、此一事は、自分に深大な考の酵母となって居る。つまり、芸術家と普通人との間には、如何に、物象の観方に純粋さの差異があるか、又、その差異が、一種常套的な道徳感のようなものと結合して、一般・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・を貫いて流れている熱い生活力、不撓な意志、卑劣を侮蔑する強い精神そのものが、おのずからプロレタリアの闘争と一脈相通じるものであった。ゴーリキイはそうと自身知らずに新興労働階級の代表として立ち現れた。どん底からの創造力の可能性をひびかせ初めた・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫