・・・江戸ではまだ敵討の願を出したばかりで、上からそんな沙汰もないうちに、九郎右衛門は意気揚から拵附の刀一腰と、手当金二十両とを貰って、姫路を立った。それが正月二十三日の事である。 二月五日に九郎右衛門は江戸蠣殻町の中邸にある山本宇平が宅に着・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・兼て好い刀が一腰欲しいと心掛けていたので、それを買いたく思ったが、代金百五十両と云うのが、伊織の身に取っては容易ならぬ大金であった。 伊織は万一の時の用心に、いつも百両の金を胴巻に入れて体に附けていた。それを出すのは惜しくはない。しかし・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・「道服に一腰ざし。むくつけい暴男で……戦争を経つろう疵を負うて……」「聞くも忌まわしい。この最中に何とて人に逢う暇が……」 一たびは言い放して見たが、思い直せば夫や聟の身の上も気にかかるのでふたたび言葉を更めて、「さばれ、否・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫