・・・ゴーリキイにとっての上役、料理番のスムールイという大力男が行李の中に何冊かの本をもっていた。彼はゴーリキイに目をかけて、繰返し、繰返し云った。「本を読みな。わからなかったら七度読みな、七度でわからなかったら十二遍読むんだ!」 そして・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・青年たちは、自分たちの薄給を身にこたえて知り、かつ自分の上役たちにさらわれてゆく若い女の姿を見せつけられすぎている。職業婦人たちは、それぞれの形で、いわゆる男の裏面をも知らざるを得ない立場におかれている。私たちの新しい常識は、職場での結合を・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・それまでに願書を受理しようとも、すまいとも、同役に相談し、上役に伺うこともできる。またよしやその間に情偽があるとしても、相当の手続きをさせるうちには、それを探ることもできよう。とにかく子供を帰そうと、佐佐は考えた。 そこで与力にはこう言・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・それは知らぬと言うじゃろう。上役のものは全く知らぬかも知れぬ。とにかくあの者どもは早くここを立たせるがよい。土地のものと文通などをいたさせぬようにせい」「はっ」といって本多は忙がしげに退出した。 饗応の用意はかねてととのえてあった。・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・しかし伊織は番町に住んでいたので、上役とは詰所で落ち合うのみであった。 石川が大番頭になった年の翌年の春、伊織の叔母婿で、やはり大番を勤めている山中藤右衛門と云うのが、丁度三十歳になる伊織に妻を世話をした。それは山中の妻の親戚に、戸田淡・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫