・・・ 上述の如く倫理学の研究にはまず人生の事象についての、倫理的関心と情熱とが先行しなければならぬ。そしてその具体的研究の第一着手は倫理的な問いから発足しなければならぬ。問いはすべての初めである。しかもまた問いはその解決でさえもあるのだ。ハ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・従ってこの問題と上述の「猫の場合」とは全然何の関係もない別種類の事柄である。何の関係もないことであるにもかかわらず、ふとした錯覚で何かしら関係があるような気がしたのは、たしかに自分の頭の迷誤である。それで、これも不思議な錯覚の一例として後日・・・ 寺田寅彦 「ある探偵事件」
・・・ レコードは上述のごとく、いわば一つの線状尺度の比較できめるだけのものである。それで、もしも、物や人の価値をきめる属性の数がただ一つならば、このような線の尺度が一つあれば間に合う。しかし、空間の中に静止する一点の位置を決定するだけでも三・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・しかし上述のいろいろな不思議な事実はやはり不思議な事実であってその事実は科学的説明を要求する。どれもこれもことごとく偶然の現象だとして片付ける前にともかくも何かしら合理的な方法のふるいにかけて吟味しなければならない。しかし従来のように言語の・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ ともかくも西鶴の知識慾の旺盛であった事は上述の諸項からも知られるが、しかし西鶴の知識慾の向けられた対象を、例えば馬琴のそれと比較してみるとそこに興味ある差違を見出すことが出来るであろう。 江戸時代随一の物知り男曲亭馬琴の博覧強記と・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 以上述べたものの多くは、言わば「並行縞」と呼ばれるべき形態のものであったが、このほかになお「放射縞」と言わるべきものがある。もっとも、上述の中でも、噴泉塔の縞や、鈴木君の円板の割れ目などもむしろこの放射型に属するものであったが、このい・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ しかれども大いに驚き大いに疑う無知者愚者となるためにはまたひろく知り深く学ばねばならぬのである。上述のガリレー、ニュートンの発見に関する逸話はその実信ずるに足らぬ俗説であるが、しかしこれらの発見をするためにはまた非凡な準備素養を要した・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・ 上述のごとく、視覚による説が疑わしく、しかも嗅覚否定説の根拠が存外薄弱であるとして、そうして嗅覚説をもう一ぺん考え直してみるという場合に、一番に問題となることは、いかにして地上の腐肉から発散するガスを含んだ空気がはなはだしく希薄にされ・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・ 以上述べきたったような日本の自然の特異性またそれによって規約された日本人の日常生活の特異性はその必然の効果を彼らの精神生活に及ぼさなければならないはずである。この方面に関しては私ははなはだ不案内であるが上述の所説の行きがかり上少しばか・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・もう一つの重大な理由と思われるのは日本古来の短い定型詩の存在とその流行によってこの上述の魔術に対するわれわれの感受性が養われて来たことである。換言すればわれわれが、長い修業によって「象徴国の国語」に習熟して来たせいである。 ステファン・・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
出典:青空文庫