・・・マルクスはさらに進んで意識を自然の反映であるとし、道徳は経済関係の上部構造としての二次的のものにすぎないとした。生産関係はそれに内存する必然法則により発展して最後に幸福な社会を産み出す力があるとする。ブルジョア社会の道徳はその階級にのみ妥当・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・現実主義者が恋愛は性慾と生殖作用の上部構造にすぎないといっても、精神的憧憬の深いイデアリストは恋愛が性慾をこえた側面を持ち、むしろそのこえんとする悩みにこそ、恋愛の秘義があると主張してやまないであろう。 青年学生はいずれ関心事たる恋愛に・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・その声は、のどの最上部にまで、ぐうぐう押し上げて来た。 が、彼は、必死の努力で、やっとそれを押しこらえた。そして、前よりも二倍位い大股に、聯隊へとんで帰った。「女のところで酒をのむなんて、全くけしからん奴だ!」 営門で捧げ銃をし・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ その群がりかさなってたおれた人の一ばん下になっていたために、からくもたすかって息をふきかえし、上部の人がすっかり黒やけになったのち、やっともぐり出たという人が二、三十人ばかりあります。そんな人たちの話をきくと、まるで身の毛もよだつよう・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・それよりも右耳の後上部の頭蓋骨をひどく打ったらしい形跡があって、そのほうがはなはだ大事だというので、はじめはたいした事でもないと思った事がらがだんだんに重大になって来た。T氏の話によると、頭を打ってから数時間の間当人はいっこう平気で、いつも・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・削った長い木の杖を斜について危げに其足駄を運んで行く。上部は荷物と爪折笠との為めに図抜けて大きいにも拘らず、足がすっとこけて居る。彼等の此の異様な姿がぞろぞろと続く時其なかにお石が居れば太十がそれに添うて居ないことはない。然し太十は四十にな・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ギージという革紐にて肩から釣るす種類でもない。上部に鉄の格子を穿けて中央の孔から鉄砲を打つと云う仕懸の後世のものでは無論ない。いずれの時、何者が錬えた盾かは盾の主人なるウィリアムさえ知らぬ。ウィリアムはこの盾を自己の室の壁に懸けて朝夕眺めて・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・現にこの私は上部だけは温順らしく見えながら、けっして講義などに耳を傾ける性質ではありませんでした。始終怠けてのらくらしていました。その記憶をもって、真面目な今の生徒を見ると、どうしても大森君のように、彼らを攻撃する勇気が出て来ないのです。そ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・もっとも帽の上部は見えて居らぬ。首から下も見えぬけれど何だか二重廻しを著て居るように思われた。その顔が三たび変った。今度は八つか九つ位の女の子の顔で眼は全く下向いて居る。額際の髪にはゴムの長い櫛をはめて髪を押さえて居る。四たび変って鬼の顔が・・・ 正岡子規 「ランプの影」
・・・社会にあって文学が政治とともに経済の上部構造であるにしても、芸術のように旺盛な人間の創造的表現が、人々の心に訴え、語りかける以上、それがまた立ちかえって政治に影響しないということはありえないことである。発生の順を社会科学の角度からみれば、後・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
出典:青空文庫