・・・社会の下積みという言葉を聞くと、赤土のなかから生えていた女の腿を思い出した。放胆な大槻は、妻を持ち子を持とうとしている、行一の気持に察しがなかった。行一はたじろいだ。 満員の電車から終点へ下された人びとは皆働人の装いで、労働者が多かった・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・ 本当に、諸神が昔パンドーラに種々の贈物をされた時、私が何心なく希望を匣の下積みに投げ入れたのはよいことであった。 行って東風に頼んで来よう。少しはっきり下界の音を運びすぎる。――おやすみなさい、神々。今貴方がたの睡って被・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・戦争で父を失くした子供たちが、おさない心に運命をあきらめて社会の下積みに沈んでいく小さい姿を思いやったとき、わたしたちの心に湧くのは何でしょう。もっと住みよい社会を! 人が人らしく生きられる社会を! という願いのほかにありません。戦争で破壊・・・ 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・云いかえれば、今の世の中で下積みの女は、下積みで生涯を過していいように生れているとそういう論である。 私は、入沢達吉博士の随筆をまたないでも医学博士というものの実質に多大の疑問をもち、又愚劣さを感じた。 現在のような社会で、女が弁護・・・ 宮本百合子 「花のたより」
出典:青空文庫