・・・私は同伴する人たちのことを思い、ようやく回復したばかりのような自分の健康のことも気づかわれて、途中下諏訪の宿屋あたりで疲れを休めて行こうと考えた。やがて、四月の十三日という日が来た。いざ旅となれば、私も遠い外国を遍歴して来たことのある気軽な・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ 下諏訪まで、切符を買った。家を出て、まっすぐに上諏訪へ行き、わきめも振らずあの宿へ駈け込み、そうして、いきせき切って、あのひと、いますか、あのひと、いますか、と騒ぎたてる、そんな形になるのが、いやなので、わざと上諏訪から一つさきの下諏・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・ べこべこ三味線 お座つき香に迷うがすんだら 都々逸 下諏訪らしい広告 御待合開業 今回各位の御同情により二月十八日より 御待合並にうどん店 開業致し親切丁寧を旨として大勉強仕候間御引立の・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・「あ、もしもし、下諏訪の二十九番」 女の声だ。「一力さんですか、すみませんがお鶴姉さん手があいてましたら電話口へおよび下さいな」 宵は水のようだから、若い玄人じみた女の声は耳の傍に聴える。「もしもし姉さん、私……わかった・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫