・・・ チョンチョンと下足札を鳴らすが、小屋は満員で、騒然としていて、顔役は、まがい猟虎の襟付外套で股火をし、南京豆の殼が処嫌わず散らかっているだけだ。山塞の頭になった役者が粗末な舞台で、「ええ、きりきりあゆめえ!」と声を搾って大見得・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
神奈川県足柄郡下足柄村十三部落 演習中の野宿反対 人家に迷惑をかけず宿やにとめろ 宿舎のない演習なんかやめたがいいんだ。○江東地区の一人、暗闇夜、自転車をとばして地区のデンタンを電車・乗合自動車のうしろ・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・ 下足場へ下りると、ここは昔ながらの薄ら寒いくらがりで、もと二人いた下足番の爺さんが、きょうは一人で、僅かのはきものの番をしていた。わたしは草履をもって来たんだけれど、と云ったら、じゃあ、下駄はもって行って下さいよ、番号があわなくなると・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ 下足番が垂幕の前で叫ぶ。物干しの上は風当りが強いが太鼓はそのまま、傍の小窓の敷居を跨いで先ず太鼓叩きが中へ入った。つづいて、クラリネットを片手に下げ、縞の羽織の裾をまくって「うう寒い」 ひょいと窓へ吸い込まれて仕舞った。――然・・・ 宮本百合子 「町の展望」
・・・白のジャケツやら湯帷子の上に絽の羽織やら、いずれも略服で、それが皆識らぬ顔である。下足札を受け取って上がって、麦藁帽子を預けて、紙札を貰った。女中に「お二階へ」と云われて、梯を登り掛かると、上から降りて来る女が「お暑うございますことね」と声・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫