・・・が、靴足袋をはいているにもせよ、この脚で日本間を歩かせられるのはとうてい俺には不可能である。……「九月×日 俺は今日道具屋にダブル・ベッドを売り払った。このベッドを買ったのはある亜米利加人のオオクションである。俺はあのオオクションへ行っ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・自分がそれをことごとく読破すると云う事は、少くとも日本にいる限り、全く不可能な事である。そこで、自分はとうとう、この疑問も結局答えられる事がないのかと云う気になった。所が丁度そう云う絶望に陥りかかった去年の秋の事である。自分は最後の試みとし・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・衝動の醇化ということが不可能であるをもって、この二つに一つのいずれかを選ぶほかはない。私はブルジョア階級の崩壊を信ずるもので、それが第四階級に融合されて無階級の社会の現出されるであろうことを考えるものであるけれども、そしてそういう立場にある・・・ 有島武郎 「想片」
・・・生活や思想にはある程度まで近づくことができるとしても、その感情にまで自分をし向けていくことは不可能といって差し支えない。しかも僕はブルジョアは必ず消滅して、プロレタリアの生活、したがって文化が新たに起こらねばならぬと考えているものだ。ここに・・・ 有島武郎 「片信」
・・・そんな事は全然不可能ではないか。 こう思って見ていると、今一秒時間の後に、何か非常な恐ろしい事が出来なくてはならないようである。しかしその一秒時間は立ってしまう。そしてそれから処刑までの出来事は極めて単純である。可笑しい程単純である。・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・をそのままにしておいて、その中に自力をもって我々が我々の天地を新に建設するということはまったく不可能だということである。かくて我々は期せずして第二の経験――宗教的欲求の時代に移った。それはその当時においては前者の反動として認められた。個人意・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・いかな明敏な人でも、君と僕だけ境遇が違っては、互いに心裏をくまなくあい解するなどいうことはついに不可能事であろうと思うのである。 むろん僕の心をもってしては、君の心裏がまたどうしてもわからぬのだ。君はいつかの手紙で、「わかるもわからぬも・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・今日の如く雑誌の寄書家となって原稿料にて生活する事は全く不可能であった。偶々二三の人が著述に成功して相当の産を作った例外の例があっても、斯ういう文壇の当り屋でも今日の如く零細なる断片的文章を以てパンに換える事は決して出来なかった。 夫故・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・それ等を、公平によって、書くことは不可能なことである。 都市労働者の生活は、これを最もよく知れる者によって書かれなければならない如く、農村の百姓の生活は、同じく体験あるものによって、始めて代弁されるであろう。 私達は、近代、機械によ・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・何故かと云うに一般民衆にとって大学教育を受くると云うことは経済的に殆んど不可能の事であるし、今一つは大学教授と云うような人は自分の専門的の学科には忠実であろうが、学生の人格の養成や、或はどのような人間を作ろうかなど云うような事に就ては欠陥が・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
出典:青空文庫