・・・ラジオ放送と似た禁令があるかもしれないが、読者の要求に対しては不親切であると思われる。 墨の製法を書いた本はないかと思って気をつけて見たが、なかなか見つからない。化学的染料塗料色素等に関する著書はずいぶんたくさんにあるが、古来のシナ墨、・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・あるいは心配して読者の便宜をはかってくれぬ書き方、呑気もしくは不親切な書き方と云っても悪くはありますまい。もしくは伸縮方を解せぬ、弾力性のない文章と評しても構わないでしょう。汽車電車は無論人力さえ工夫する手段を知らないで、どこまでも親譲りの・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・如何にも不親切な、臨機の処置を知らぬ検疫官だと思うて少しは恨んで見た。しかし今は平和の時でないのだから余り卑怯な事はいうまい位の覚悟は初めからして居る。そう思うて自分はあきらめた。けれどもつくづくと考えて見るとまた思い乱れてくる。平生の志の・・・ 正岡子規 「病」
・・・ 芳子さんが不親切なのだと、はっきり思うのでもありませんし、自分がどう云う辛い目に会ったと云うのでもありません。けれども、只気持だけで、辛いのです。真個に友子さんの云う通り、私は不幸なのだ、と思うと、政子さんには、訳もなく、寂しく情けな・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ こういう日本の古い、不親切な婦人への考えかた、感じかたは、一般女性の日常生活にもっと深刻に影響している。 参政権を得たり、組合が出来てから、若い娘が女らしくなくなった、或は女らしくなくなりはしないか、ということはどこでもいわれてい・・・ 宮本百合子 「「女らしさ」とは」
・・・今じきにあがりますと云いながら、夕方になっても来て呉れないので、家の者は、書生が悪いと云ったので一寸逃れをして居るのだろう、お医者なんて不親切なものだなどと云い合って居た。 物に熱し易い娘は、 人の命の色分けはないじゃあありませ・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・たべたというよりも食べずにいられなかったのであったが、そのときの不親切な味の水っぽさ、もののわるさは忘れがたい。それだのに、くりぜんざいにはつい釣られた。栗とぜんざいとが別々にかかれていたのなら、私たちも大丈夫だったのに、と歎いた。自由平等・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・はいちじるしかったと、それも不幸の一つの原因としていわれているが、もしそれがそんなにはっきり誰の目にも映じているとしたら、新鮮だと断言出来ないような卵をきまった船の献立だからといって、形式的に食わせる不親切な心持を感じる。 もう一つ私た・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
・・・ 姫路その他の駅でも感じていた運輸事務能力の低さ、無智な不親切さが、このときも身に沁みた。 思えば愕くべきことだが、日本の鉄道省は、各駅間の無電連絡を一つも持っていないのではなかろうか。 事務室で、チリチリとベルが鳴り、係員がハ・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
出典:青空文庫