・・・は、決して太平洋戦争の日、お百度詣りをしていた母や妻たちに示されなかった。与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」と戦争の野蛮に抗議した詩は、文学史の上にさえ全文を現わさなかった。日露戦争当時、晶子がこの作品を発表したことを憤って大町桂月が大・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・久米正雄氏が嘗て美しい夫人を伴ってアメリカ人と肩を並べ悠々漫歩したパリのヴルールには、きょう、その時分にはなかった種類の示威行列がねっているそうである。与謝野晶子、藤村などが詩を語って、思い出の中にまざまざ生かしているであろうカフェー・リラ・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・私が源氏物語を読んだのは、与謝野さんの訳でではあったが、あの絢爛な王朝文学の、一種違った世界の物語りや、優に艷めかしい插画などが、子供の頭に余程深く印象されたものらしい。そしてそれに動かされて書いたのがこの「錦木」だったのである。その「錦木・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・た関係から、家の古びた大本箱に茶色表紙の国民文庫が何冊もあって、私は一方で少女世界の当選作文を熱心に読みながら、ろくに訳も分らず竹取物語、平家物語、方丈記、近松、西鶴の作品、雨月物語などを盛によんだ。与謝野晶子さんの現代語訳源氏物語が出版さ・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
・・・なぜと申しますに、源氏物語を翻訳するに適した人を、わたくし共の同世の人の間に求めますれば、与謝野晶子さんに増す人はあるまいと思いますからでございます。源氏物語が Congコンジェニアル な人の手で訳せられたのだと思いますからでございます。・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
出典:青空文庫