・・・世渡りの秘訣 節度を保つこと。節度を保つこと。緑雨 保田君曰く、「このごろ緑雨を読んでいます。」緑雨かつて自らを正直正太夫と称せしことあり。保田君。この果敢なる勇気にひかれたるか。ふたたび書簡のこと・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・団体さえ組めば何でも優先権をとれる、という昔とはちがった世渡り上手のこつを会得させることでもないと思う。団体行動の流行は、一人一人の人間としての向上に細かい目を向けないで、ただそこへくっついていさえすればいいのだからという逃避の無責任さを、・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・芸術至上主義ととなりあわせて極めて卑俗な楽壇世渡り、社交性が、芸術家に必要な社会性とすりかえられて並んでいます。俳優の生活は旧套の中から既に舞台芸術家として、新しい生活方法に入っている前進座のような実例がありますが、音楽家には、ここで俳優と・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・身の上相談の解答者となる女の先輩達は、そのことによって或る程度まで自身の社会的名声というようなものをも拡大するのであるが、上述のような世渡りのこつめいたものが必要とされ、結局は、女が同じ女の愚かさで食うということになる。そこには、今日の女の・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・ 私は、決して、巧くスルリスルリと万事をすりぬけて、楽に「世渡り」をする人間にはなりたくありません。三十年か四十年世の中に揉まれていれば、大抵の者のなれる「世故にたけたお悧巧な方」になりたくもありません。私はただ、ほんとの生活がしたい。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・友達が世渡りの辛苦を訴えると、真面目に答えた、「僕がしているとおりにしたまえ、私は支配せらるるままにしている」と。 これには流石のブランデスも些か驚歎して、「純粋のスラヴ人で、感受性に鋭く、智的に多産でありながら、殆ど意志の力を欠いてい・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫