・・・そうして物干し竿におしめがにぎやかに並びますわ。青島さんは花田さんといっしょに会をやって、きっと偉くなるわ。いまにみんながあなたの画を認めて大騒ぎする時が来てよ。そうして堂脇さんとやらが、美しいお嬢さんをもらってくださいって、先方から頭をさ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・はたまた今日我邦において、その法律の規定している罪人の数が驚くべき勢いをもって増してきた結果、ついにみすみすその国法の適用を一部において中止せねばならなくなっている事実(微罪不検挙の事実、東京並びに各都市における無数の売淫婦が拘禁は何を語る・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・色紙、短冊でも並びそうな、おさらいや場末の寄席気分とは、さすが品の違った座をすすめてくれたが、裾模様、背広連が、多くその席を占めて、切髪の後室も二人ばかり、白襟で控えて、金泥、銀地の舞扇まで開いている。 われら式、……いや、もうここで結・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・――この硝子窓の並びの、運動場のやっぱり窓際に席があって、……もっとも二人並んだ内側の方だが。さっぱり気が着かずにいた。……成程、その席が一ツ穴になっている。 また、箸の倒れた事でも、沸返って騒立つ連中が、一人それまで居なかったのを、誰・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ 向島のうら枯さえ見に行く人もないのに、秋の末の十二社、それはよし、もの好として差措いても、小山にはまだ令室のないこと、並びに今も来る途中、朋友なる給水工場の重役の宅で一盞すすめられて杯の遣取をする内に、娶るべき女房の身分に就いて、忠告・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・この瑜瑕並び蔽わない特有の個性のありのままを少しも飾らずに暴露けた処に椿岳の画の尊さがある。 椿岳の画は大抵小品小幀であって大作と見做すべきものが殆んどない。尤もその頃は今の展覧会向きのような大画幅を滅多に描くものはなかったが、殊に椿岳・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・瑜瑕並び覆わざる赤裸々の沼南のありのままを正直に語るのは、沼南を唐偏木のピューリタンとして偶像扱いするよりも苔下の沼南は微笑を含んでかえって満足するであろう。 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・ 新開地にできた工場が、並び合って二つありました。一つの工場は紡績工場でありました。そして一つの工場は、製紙工場でありました。毎朝、五時に汽笛が鳴るのですが、いつもこの二つは前後して、同じ時刻に鳴るのでした。 二つの工場の屋根には、・・・ 小川未明 「ある夜の星たちの話」
・・・背中にぴたりと体をつけたまま、手綱をしゃくっている騎手の服の不気味な黒と馬の胴につけた数字の1がぱっと観衆の眼にはいり、1か7か9か6かと眼を凝らした途端、はやゴール直前で白い息を吐いている先頭の馬に並び、はげしく競り合ったあげく、わずかに・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・ 戎橋の停留所から難波までの通りは、両側に闇商人が並び、屋号に馴染みのないバラックの飲食店が建ち、いつの間にか闇市場になっていた。雑閙に押されて標札屋の前まで来た時、私はあっと思った。標札屋の片店を借りていた筈の「波屋」はもうなくなって・・・ 織田作之助 「神経」
出典:青空文庫