・・・そうして金曜に起こったのだけを拾い出して並べて不思議がるのが通例である。この点が科学者の目で見た時に少しおかしく思われるのである。今度の場合が偶然ノトリアスに有名な「金曜」すなわち耶蘇の「金曜」であったので、それで、「曜」が問題になり、前の・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・店にはすぐに数えつくされるくらいの品物――鍬や鎌、鋏や庖丁などが板の間の上に並べてあった。私の求める鋏はただ二つ、長いのと短いのと鴨居からつるしてあった。 ちょうど夕飯をすまして膳の前で楊枝と団扇とを使っていた鍛冶屋の主人は、袖無しの襦・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・その中に建てた妙な屋台造りに生き人形が並べてあった。鞍馬山で牛若丸が天狗と剣術をやっているのがあった。その人形の色彩から何からがなんとも言えない陰惨なものである。この小屋の上にそびえた美しい老杉までがそのために物すごく恐ろしく無気味なものに・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・だから人間でも脇腹か臍のへんに特別な発声器があってもいけない理由はないのであるが、実際はそんなむだをしないで酸素の取り入れ口、炭酸の吐き出し口としての気管の戸口へ簧を取り付け、それを食道と並べて口腔に導き、そうして舌や歯に二役掛け持ちをさせ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・二階の室々にはいろいろな遺物など並べてありますが、私にはゲーテの実験に使った物理器械や標本などがおもしろうございました。シラーの家はいっそう質素と言うよりはむしろ貧しいくらいでした。ゲーテの家には制服を着けた立派な番人が数人いましたが、シラ・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・在来の型以外のものに対して盲目な公衆の眼にはどうしても軽視され時には滑稽視されるのは誠に止むを得ぬ次第であるが、そういう人でも先ず試みに津田君のこの種の絵と技巧の一点張の普通の絵と並べて壁間に掲げ、ゆっくり且つ虚心に眺めて見るだけの手数をし・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
発病する四五日前、三越へ行ったついでに、ベコニアの小さい鉢を一つ買って来た。書斎の机の上へ書架と並べて置いて、毎夜電燈の光でながめながら、暇があったらこれも一つ写生しておきたいと思っていたが、つい果たさずに入院するようにな・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・ こう思って私は過去の旅行カバンの中から手捜りに色々なものを取り出して並べて見ている。 先ず色々の書物が出て来る、大概は汚れたり虫ばんだりしてもう読めなくなっている。様々な神や仏の偶像も出て来るが一つとして欠け損じていないのはない。・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 私の厭なところと、好なところを性質から区別して並べて御覧に入れました。これで私が芝居を見ている時の順慶流の気持が少し説明ができたつもりですが、まだこのほかにもなかなかあります。それは他日御面会の節に譲ります。不折は男性、女性、中性を見・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・其処で木の実、草の実と並べていわねば完全せぬわけになる。この点では、くだものといえばかえって覆盆子も葡萄もこめられるわけになる。くだもの類を東京では水菓子という。余の国などでは、なりものともいうておる。○くだものに准ずべきもの 畑に作る・・・ 正岡子規 「くだもの」
出典:青空文庫