・・・それよりも五里の山路が苦になって、やたらに不平を並べるような人が困った男なんだ」「腕力や脚力を持ち出されちゃ駄目だね。とうてい叶いっこない。そこへ行くと、どうしても豆腐屋出身の天下だ。僕も豆腐屋へ年期奉公に住み込んで置けばよかった」・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・海事局だって、俺の言い分なんか聞かねえ事あ、手前や船長が御託を並べるまでも無えこっちで知ってらあ。愈々どん詰りまで行けゃあ、俺だって虫けらた違うんだからな。そうなりゃ裸と裸だ。五分と五分だ。松葉杖ついたって、ぶっ衝って見せるからな」 松・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・ まとまりのない、日向の飴の様な字をかなり並べる間、お金は傍に座って筆の先を見ながら、自分の息子にあまり益のない嫁を取った損失を考えて居た。 始め、恭二を養子にする時だって、もう少しいい家から取るつもりで居た目算が、ひょんな事からは・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ まして、作品評の場合、アカデミックな字を並べることは、ほとんど必要ない。 一つの文学作品についての批評をよく読んでおくと、この次、また別な作品を読む場合にどう読めばいいかが分る。そのくらい親切な批評がわれわれには欲しい。 ブル・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・そして変な物を並べる商人を何かの形で思い知らせる。 のどかな漫歩者の上にも、午後の日は段々傾いて来る。 明るく西日のさす横通りで、壁に影を印しながら赤や碧の風船玉を売っていた小さい屋台も見えなくなった。何処からとなく靄のように、・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・明かに矛盾を認める心、真正なことの裏切られる苦痛、適当な言葉を知らず、整った順序に並べることの出来るほど、複雑な頭脳を持っていなかった彼女は、何も彼にもただ感じるだけなのである。 ああ、そんなことをするものではない、彼女は黙っていられな・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・何故かくも難しい述語を、百科辞典式に書き並べるのであろうかと歎息する。更に、その人は、業々しい書き起しに煩わされ、乱彩ぶりに悩まされ、詩人バルザックの難渋さに苦しむのである。そして、最後にその人はこう云うのである。「私が誰かの作品を読むとい・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・舞台監督はこの新しき女優を神のごときサラと相並べることの不利を思って一時彼女を陰に置こうとした。しかしデュウゼはきかない。なあに競争しよう、比較していただこう。私は恐れはしない、Ci Sono auch' io なあに私だって女優だ。――そ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫