・・・かも会費こそは安いが、いずれも一家をなし、一芸に、携わる連中に――面と向っては言いかねる、こんな時に持出す親はなし、やけに女房が産気づいたと言えないこともないものを、臨機縦横の気働きのない学芸だから、中座の申訳に困り、熱燗に舌をやきつつ、飲・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・そしてもう少し行くと、中座、浪花座と東より順に五座の、当時はゆっくりと仰ぎ見てたのしんだほど看板が見られたわけだったが、浜子は角座の隣りの果物屋の角をきゅうに千日前の方へ折れて、眼鏡屋の鏡の前で、浴衣の襟を直しました。浜子は蛇ノ目傘の模様の・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 新世界に二軒、千日前に一軒、道頓堀に中座の向いと、相合橋東詰にそれぞれ一軒ずつある都合五軒の出雲屋の中でまむしのうまいのは相合橋東詰の奴や、ご飯にたっぷりしみこませただしの味が「なんしょ、酒しょが良う利いとおる」のをフーフー口とがらせ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫