・・・少なくもアインシュタイン以前の力学や電気学における基礎的概念の発展沿革の骨子を歴史的に追跡し玩味した後にまず特別相対性理論に耳を傾けるならば、その人の頭がはなはだしく先入中毒にかかっていない限り、この原理の根本仮定の余儀なさあるいはむしろ無・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・だが老いて既に耄碌し、その上酒精中毒にかかった頭脳は、もはや記憶への把持を失い、やつれたルンペンの肩の上で、空しく漂泊うばかりであった。遠い昔に、自分は日清戦争に行き、何かのちょっとした、ほんの詰らない手柄をした――と彼は思った。だがその手・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・だが諸君にして、もしそれを仮想し得ないとするならば、私の現実に経験した次の事実も、所詮はモルヒネ中毒に中枢を冒された一詩人の、取りとめもないデカダンスの幻覚にしか過ぎないだろう。とにかく私は、勇気を奮って書いて見よう。ただ小説家でない私は、・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ところが私は子供のとき母が乳がなくて濁り酒で育ててもらったためにひどいアルコール中毒なのであります。お酒を呑まないと物を忘れるので丁度みなさまの反対であります。そのためについビールも一本失礼いたしました。そしてそのお蔭でやっとおもいだしまし・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・に没頭したのであったが、三ヵ月にあまるこの仕事への没頭――調べたり、ノートしたり、書いたりしてゆく過程で循環してつきない自家中毒をおこしていた精神活動の上に知らず知らず、やや健全な客観の習慣をとりもどすことが出来たのであった。翌年の秋から「・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・文学の才能だけは、アルコールの中毒くさかったり、病理的な非情のするどさでもてはやされたりする畸型的な面白がられかたは、文学そのものの恥だと思う。若い作家三島由紀夫の才能の豊かさ、するどさが一九四九年の概括の中にふれられていた。この能才な青年・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・が彼等に注ぎ込まれた毒の作用は急に消えない。中毒して本ものの病人もある。習慣的に賃銀を受とると飲んじゃう奴がある。五ヵ年計画で国じゅう真剣なのに、職場でこっそりあおっちゃくたくたしていられては堪らぬ。ソヴェトのプロレタリアートは目覚ましい勢・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
この二三日来の新聞で龍田丸の中毒事件が私たちを驚かしている。やっと故国へ近づいて明日は入港という時に卵焼の中毒で、九人もの人が僅かの時間のうちに相ついで死んで行ったし、病気でいる人が百二十五名だということは、これまで聞いた・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
・・・ 断種協会は、この社会の不幸である悪質の病気、アルコール中毒等の遺伝から子孫を防衛するために、そういう変質者、病人の断種を人道上の常識としようとする科学的立場によって、組織された会である。 産児制限を、不道徳であると婦人科の女医師で・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 十九世紀中葉のその時代のイギリスで、病人の看護をするのが聖業であるというような女は、他のまともな正業には従えない女、主としてもう往来を歩くには年をとりすぎたアルコール中毒の淫売婦あがりの婆さんたちであった。こういう看護婦というもの・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫