・・・御覧なさいまし、『八犬伝』は結城合戦に筆を起して居ますから足利氏の中葉からです、『弓張月』は保元からですから源平時代、『朝夷巡島記』は鎌倉時代、『美少年録』は戦国時代です。『夢想兵衛胡蝶物語』などは、その主人公こそは当時の人ですが、これはま・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・かえってずっと古い昔には民衆的であったかと思われる短歌が中葉から次第に宮廷人の知的遊戯の具となりあるいは僧侶の遁世哲学を諷詠するに格好な詩形を提供していたりしたのが、後に連歌という形式から一転して次第にそうした階級的の束縛を脱しいわゆる俳諧・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・それは少年少女期の終りごろから、アドレッセンス中葉に対する一つの文学としての形式をとっている。この見地からその特色を数えるならば次の諸点に帰する。一 これは正しいものの種子を有し、その美しい発芽を待つものである。しかもけっして既成の・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・明治も中葉となれば、その官僚主義も学閥も黄金魔力に毒されてゆく。 もし、昔の東大の「よき日よき大学」によきアカデミズムがあったのなら、どうしてケーベル博士は大学の教授控室の空気を全く避けとおしたということが起ったろう。夏目漱石は、学問を・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・高利貸資本を蓄積して徳川中葉から経済力を充実させて来た大阪や江戸の大町人が、経済の能力にしたがって人間らしい自分の欲望を発揮するためにはさまざまの苦肉策がとられた。大名、武家に対して町人の服装は制限されていたから、表は木綿で裏には見事な染羽・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・近代日本が、政治経済に於て官製であったと同じように文化も官製の性質を持っており、明治中葉以後のインテリゲンツィアに依って作られた文学は、主として官製なるものに、或は過去の儒的なものに対して、自覚された人間性の自由と自我の尊厳とを主張したもの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・何故ならば、十九世紀中葉までの過去の社会で、文学をつくり、文学を愛好する人々の層は、いわゆる中流以上の有識人の間に限られていた。有識人たちの日暮しは、直接自分の肉体で自然と取組みもしないし、野心満々たる企業家でもなかった。一種の批評家として・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・田村俊子の文学は明治の中葉から大正にかけて日本の女がどういう方向で独立を求めたかという段階を示している。田村俊子の人間としての女の感情自由の主張の中には、きょうの目からみると非常にはきちがえた素朴な男女平等の考えかたがある。男のするようなわ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 十九世紀中葉のその時代のイギリスで、病人の看護をするのが聖業であるというような女は、他のまともな正業には従えない女、主としてもう往来を歩くには年をとりすぎたアルコール中毒の淫売婦あがりの婆さんたちであった。こういう看護婦というもの・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・シチェードリンが、十九世紀中葉の帝政ロシアの暗い空気に抗して、地方貴族の生活の腐敗をあますところなく描き出すことで、より健全な人間生活への翹望を示していることは、訳者の序文によって明らかだし、作品そのものが何よりも熱く語っている。ロシア文化・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
出典:青空文庫