・・・おとよさんの里は中農以上の家であるに隣はほとんど小作人同様である。それに清六があまり怜悧でなく丹精でもない。おとよさんも来て間もなくすべての様子を知っていったん里へかえったのだが、おとよさんの父なる人は腕一本から丹精して相当な財産を作った人・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・当時ソヴェト同盟の遠い隅々で集団農場組織に派遣された技術家とコムソモール、それを支持する貧中農群は富農、昔から村にいて革命を憎んでいる僧侶、籠絡された村ソヴェト員の一隊と、実に必死な階級闘争をつづけつつあった。農村都会プロレタリアートの社会・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・小説「中農の伜」「違反」「雑草」など、作品としてはいろいろの未熟さその他の問題をふくんでいるとしても、作品が生活から遊離していない点でやはり読者の心をひくものをもっていると思う。 終りにのぞみ、何心なく『文芸街』の頁を繰っていたら『九州・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・の新しい課題の理解は、われわれに広汎なサークル組織、革命的小ブルジョア作家、貧・中農作家などを獲得する任務を示しているが、それは決して、小市民的自由主義へ向って、妥協によって多数者を獲得するのではない。この戦争と革命の時期を決定的勝利に向っ・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・農村の集団化を扱ったドラマでは中農の息子と貧農の息子との階級的対立が、大きい社会的背景の前に非常によく写されていた。こう云う主題はこなすのが仲々難かしい。五ヵ年計画と共に幾つかその種の脚本が書かれた。例えばカターエフが「前衛」を書いて、それ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト「劇場労働青年」」
・・・しかも、同時代のインテリゲンツィアの社会的所属という面から見ると、写生文派の人々は主として当時の中流或は上流のアカデミックな教養をもった人々があつまり、自然主義文学は早稲田の文科を中心として、地方の中農などの家庭出身の人々が多かった。そのこ・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・ 今日の社会的情勢は、日本のブルジョア作家の大部分がそこに属している小市民、中農の経済事情を極端に劣悪にしている一方、従来の文学の立前においては精神の牙城を喪っている。荒涼たる心持で周囲を眺め、大人の文学をつくり、その大人の文学によって・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ロマーシとゴーリキイのまわりに親密な感情をもって集ったのは、クラスノヴィードヴォの村での、そういう貧農たちと、進歩的な、中農なのであった。 村での実際の生活とその観察とは、ゴーリキイにナロードニキ達によって知らされていた大ざっぱで、理想・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 農村で、青年・貧農・中農たちが現実に有利な集団農場を組織しようとする。農村ブルジョアの富農は反対で、窓ガラス越しに鉄砲をブチ込み積極的な青年を殺したりした。坊主をおふせで食わせ飲ますのは富農だ。坊主と富農は互に十字架につらまって、農村・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
・・・ 私は、何だか藤村においては都会の小市民的なものの底から根づよい中農性ががんばり、顔を出しているように思います。どうかしら。それが彼の根本的の押しとなって生存せしめている忍耐ともなっていよう。 藤村における「詠嘆的、慷慨的」なものを・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫