・・・ 薄闇い狭いぬけろじの車止の横木を俛って、彼方へ出ると、琴平社の中門の通りである。道幅二間ばかりの寂しい町で、と書いた軒燈が二階造の家の前に点ている計りで、暗夜なら真闇黒な筋である。それも月の十日と二十日は琴平の縁日で、中門を出入する人・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・ 近所に住んで居る或る只の金持の昔の中門の様な門が葉桜のすき間から見えたり、あけっぱなしの様子をした美術学校の学生や、なれた声で歌って行く上野の人達のたまに通るのをジーット見て居ると、少し位の不便はあってもどうしても町中へ引越わけにはい・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・法王が城にお見えになりまして只今中門から此処をお通りなされると申す事でございますから……若者の二 左様御承知なさいませとの事でござります。若者去る。第一の女 さぞまあ武士を沢山お連れ遊ばしてでございましょうねえ。第二・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫