・・・ 下宿の女主人は、上品な老処女である。朝食に出た時、そのおばさんにエルリングはどこのものかという事を問うた。「ラアランドのものでございます。どなたでもあの男を見ると不思議がってお聞きになりますよ。本当にあのエルリングは変った男です。・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・徳蔵おじは大層な主人おもいで格別奥さまを敬愛している様子でしたが、度々林の中でお目通りをしてる処を木の影から見た事があるんです。そういう時は、徳蔵おじは、いつも畏って奥様の仰事を承っているようでした。勿論何のことか判然聞取なかったんですが、・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・ 女主人公は観音の熱心な信者である一人の美しい女御である。宮廷には千人の女御、七人の后が国王に侍していたが、右の女御はその中から選び出されて、みかどの寵愛を一身に集め、ついに太子を身ごもるに至った。そのゆえにまたこの女御は、后たち九百九・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫