・・・な訳である、若し記述して面白い様な茶であったら、それはつまらぬこじつけ理窟か、駄洒落に極って居る、天候の変化や朝夕の人の心にふさわしき器物の取なしや配合調和の間に新意をまじえ、古書を賞し古墨跡を味い、主客の対話起座の態度等一に快適を旨とする・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ここの細君は今はもう暗雲を一掃されてしまって、そこは女だ、ただもう喜びと安心とを心配の代りに得て、大風の吹いた後の心持で、主客の間の茶盆の位置をちょっと直しながら、軽く頭を下げて、「イエもう、業の上の工夫に惚げていたと解りますれば何のこ・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・いずれが真珠、いずれが豚、つくづく主客てんとうして、今は、やけくそ、お嫁入り当時の髪飾り、かの白痴にちかき情人の写真しのばせ在りしロケットさえも、バンドの金具のはて迄。すっからかん。与えるに、ものなき時は、安(とだけ書いて、ふと他のこと考え・・・ 太宰治 「創生記」
・・・然りと雖も相互に於ける身分の貴賤、貧富の隔壁を超越仕り真に朋友としての交誼を親密ならしめ、しかも起居の礼を失わず談話の節を紊さず、質素を旨とし驕奢を排し、飲食もまた度に適して主客共に清雅の和楽を尽すものは、じつに茶道に如くはなかるべしと被存・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・の途中でもなんでも一向会釈なしにいきなり飛込んで来て直ちに忙わしく旋回運動を始めるのであるが、時には失礼にも来客の頭に顔に衝突し、そうしてせっかく接待のために出してある茶や菓子の上に箔の雪を降らせる。主客総立ちになって奇妙な手付をして手に手・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・でもなんでもいっこう会釈なしにいきなり飛び込んで来て直ちにせわしく旋回運動を始めるのであるが、時には失礼にも来客の頭に顔に衝突し、そうしてせっかく接待のために出してある茶や菓子の上に箔の雪を降らせる。主客総立ちになって奇妙な手つきをして手に・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・昼間見た光景がまさしく主客顛倒したのである。しかしこの昼と夜との二つの光景を見る順序が逆であったら、心持ちはまたおのずからちがったことであろう。批判はやはり「履歴の函数」である。 こんなことを思い出しながら俳優I氏の鼻や耳をながめていた・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ 余談はしばらくおいて、AB、AC、AD……の関係、なお念のために比較の主客を置換してBA、CA、DA……の関係の濃度に対するだいたいの比較的の数値を定める事ができたとすれば、少なくもここにABという一つの「鎖の輪」が、従来よりはやや科・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・我々の方が強ければあっちこっちの真似をさせて主客の位地を易えるのは容易の事である。がそう行かないからこっちで先方の真似をする。しかも自然天然に発展してきた風俗を急に変える訳にいかぬから、ただ器械的に西洋の礼式などを覚えるよりほかに仕方がない・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
一月二十七日の読売新聞で日高未徹君は、余の国民記者に話した、コンラッドの小説は自然に重きをおき過ぎるの結果主客顛倒の傾があると云う所見を非難せられた。 日高君の説によると、コンラッドは背景として自然を用いたのではない、・・・ 夏目漱石 「コンラッドの描きたる自然について」
出典:青空文庫