・・・当時巌本善治氏の主宰していた女学雑誌は、婦人雑誌ではあったが、然し文学宗教其他種々の方面に渉って、徳富蘇峰氏の国民の友と相対した、一つの大きな勢力であった。北村君を先ず文壇に紹介したのは、この巌本善治氏であった。『厭世詩家と女性』その他のも・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・何処の深山から出て何処の幽谷に消え去るとも知れぬこの破壊の神は、あたかもその主宰者たる「時」の仕事をもどかしがっているかのように、あらゆるものを乾枯させ粉砕せんとあせっている。 火鉢には一塊の炭が燃え尽して、柔らかい白い灰は上の藁灰の圧・・・ 寺田寅彦 「凩」
・・・ 生まれて初めて自分が教わったと思われる書物は、昔の小学読本であって、その最初の文句が「神は天地の主宰にして人は万物の霊なり」というのであった。たぶん、外国の読本の直訳に相違ないのであるが、今考えてみるとその時代としては恐ろしい危険思想・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・現に花袋君の主宰しておらるる「文章世界」のごときも拝見しておらん。向後花袋君及びその他の諸君の高説に対して、一々御答弁を致す機会を逸するかも知れない。その時漱石は花袋君及びその他の諸君の高説に御答弁ができかねるほど感服したなと誤解する疎忽も・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・日清戦争の日本に於けるブルジョア文化の一形態であったキリスト教婦人同盟の主宰者として活躍した葉子の母の、権力を愛し、主我的な生き方に対して自然の皮肉な競争者として現われた娘葉子が、少女時代から特殊な環境の中で驚くべき美貌と才気とを発揮させつ・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・懇話会の主宰者・元警保局長松本学氏談として、帝国芸術院が出来上って、政府もわれわれの考えるような文化への態度を明らかにして来たから、芸術院に具体的活動をさせるためにも懇話会は解散し、自分は新しく出来る文化中央連盟と林房雄君等の努力によって出・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・当時彼が主宰していた『新生活』の紙上では、ボルシェヴィキの政策について正しい理解をひろめるため、またレーニンに対する逆宣伝の撃破のため、精力的な活動を惜しまなかった。人民委員会の顧問となって、ソヴェト政権のもとに行われる新文化建設のために、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ ゴーリキイは、当時自分の主宰していた『新生活』紙上で、この新しい人類の世紀の正しい理解をひろめるために、又、レーニンに対する逆宣伝を破るために精力的な活動を惜まなかった。彼は人民委員会の顧問となり「学者の生活改善委員会」の長となり「世・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・垣裾へ忍びよる憲兵の足音を聞きつけたからだった。主宰者が憲兵を中へ招じ入れたものか、どうしたものかと栖方に相談した。「いや、入れちゃ不可ん。癖になる。」 床前に端座した栖方は、いつもの彼には見られぬ上官らしい威厳で首を横に振った。断・・・ 横光利一 「微笑」
・・・が万物に充満していると説くところは、やや汎神論的に見えるが、しかしそれをあくまでも天地の主宰者として取り扱うところに、佐渡守の狂信の対象であった阿弥陀仏や、キリシタンの説いていたデウスとの相似を思わせる。そういう点を考えると、この書が佐渡守・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫