・・・ それは空気の中に何かしらそらぞらしい硝子の分子のようなものが浮んできたのでもわかりましたが第一東の九つの小さな青い星で囲まれたそらの泉水のようなものが大へん光が弱くなりそこの空は早くも鋼青から天河石の板に変っていたことから実にあきらか・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・と云いながらそれをあけて見ますと、中には無くなった農具が九つとも、ちゃんとはいっていました。 それどころではなく、まんなかには、黄金色の目をした、顔のまっかな山男が、あぐらをかいて座っていました。そしてみんなを見ると、大きな口をあけてバ・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・お父さんは九つの氷河を持っていらしゃったそうだ。そのころは、ここらは、一面の雪と氷で白熊や雪狐や、いろいろなけものが居たそうだ。お父さんはおれが生れるときなくなられたのだ。」俄かにラクシャンの末子が叫ぶ。「火が燃えている。火が燃えて・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・流転の階段は大きく分けて九つある。われらはまのあたりその二つを見る。一つのたましいはある時は人を感ずる。ある時は畜生、則ち我等が呼ぶ所の動物中に生れる。ある時は天上にも生れる。その間にはいろいろの他のたましいと近づいたり離れたりする。則ち友・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「じゃ一つ違いですね、家のは九つだから。学校は何年? 三年? 四年?」「…………」 一太は凝っと大きい母親の眼にみられ正直に、「学校へ行きません」と云った。一太は変に悲しい気がするのが常であった。それは一太のその答えを聴・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・或る晩、九つの私は父につれられて本郷の切通しだったか坂の中途にある薄暗いその楽器屋へピアノを見に行った。いく台も並んである間にはさまって、その黒いピアノは大したものにも見えなかったので何となしぼーとしてかえって来た。ところが何日か経って、天・・・ 宮本百合子 「親子一体の教育法」
写真機についての思い出は、大層古いところからはじまる。 私が九つになった年の秋に、イギリスに五年いた父親がかえって来た。横浜へ迎えにゆくというので、その朝は暗いうちに起きて、ラムプの下へ鏡台を出して母は髪を結った。私は・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 九つになった秋、父がロンドンからかえって来た。その頃のロンドンの中流家庭のありようと日本のそれとの相異はどれほど劇しかったことだろう。父は総領娘のために子供用のヴァイオリンと大人用のヴァイオリンを買って来た。ハンドレッド・ベスト・ホー・・・ 宮本百合子 「きのうときょう」
・・・亡くなった三右衛門がためには、九つ違の実弟である。 九郎右衛門は兄の訃音を得た時、すぐに主人意気揚に願書を出した。甥、女姪が敵討をするから、自分は留守を伜健蔵に委せて置いて、助太刀に出たいと云うのである。主人本多意気揚は徳川家康が酒井家・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・兄文治が九つ、自分が六つのとき、父は兄弟を残して江戸へ立ったのである。父が江戸から帰った後、兄弟の背丈が伸びてからは、二人とも毎朝書物を懐中して畑打ちに出た。そしてよその人が煙草休みをする間、二人は読書に耽った。 父がはじめて藩の教授に・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫