近時世界の耳目を聳動せる仏国ドレフューの大疑獄は軍政が社会人心を腐敗せしむる較著なる例証也。 見よ其裁判の曖昧なる其処分の乱暴なる、其間に起れる流説の奇怪にして醜悪なる、世人をして殆ど仏国の陸軍部内は唯だ悪人と痴漢とを・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・「お客さんだもの……」 女は単純に答えた。龍介はちょっとつまった。「貞操を金で買うんだよ……」「そんなこと……」「へえそんなこと……」彼もちょっとそう言わさった。「乱暴なお客さんでもなかったら、別になんでもないわ」・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・わざと乱暴な言葉を使う。『時計を買いやがった――動いていやがらあ』――お前たちのはその調子だもの。」「いけねえ、いけねえ。」と、次郎は頭をかきながら食った。「とうさんがそんなことを言ったって、みんながそうだからしかたがない。」と、三・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ギンは、「そんな乱暴なことはけっしてしません。あなたをぶつくらいなら、それより先に私の手を切り取ってしまいます。」 こう言ってかたくちかいをしました。そうすると、どうしたわけか湖水の女はふいにだまって水の中へ下りて、牛と一しょに、ひ・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・言い、薄氷を踏む思いで冗談を言い、一部の読者、批評家の想像を裏切り、私の部屋の畳は新しく、机上は整頓せられ、夫婦はいたわり、尊敬し合い、夫は妻を打った事など無いのは無論、出て行け、出て行きます、などの乱暴な口争いした事さえ一度も無かったし、・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・ポルジイはこれを承って、乱暴にも、「それでは肥料車の積載の修行をするのですな」と云った。その二は世界を一周して来いと云うのである。半年程留守を明けて、変った事物を見聞して来るうちには、ドリスを忘れるだろうと云うのである。勿論漫遊だって、身分・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 現在のわれわれの分子物理学上の知識から考えて、こういう想像は必ずしもそう乱暴なものではないということは次のような考察をすれば、何人にも一応は首肯されるであろうと思う。 金属と油脂類との間の吸着力の著しいことは日常の経験からもよく知・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・力の強い子で、朝、教室の前で同級生たちを整列させているとき、級長の号令をきかないで乱暴する子があると、黙って首ッ玉と腕をつかんでひっぱってくる。そんなときもやはりわらっていた。 林が私のために、邸の奥さんに詫びてくれてから、私は林が好き・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・だが甞て乱暴したということもなくてどっちかというと酷く気の弱い所のあるのは彼の母の気質を禀けたのであった。彼の兄も一剋者である。彼等二人は両親が亡くなって自分等も老境に入るまでしみじみと噺をした事がない。そうかといって太十はなかなか義理が堅・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・大変悪いようですがどうかなさりゃしませんか」と御母さんが逆捻を喰わせる。「髪を御刈りになると好いのね、あんまり髭が生えているから病人らしいのよ。あら頭にはねが上っててよ。大変乱暴に御歩行きなすったのね」「日和下駄ですもの、よほど上っ・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
出典:青空文庫