・・・ 大柄な婦人で、鼻筋の通った、佳い容色、少し凄いような風ッつき、乱髪に浅葱の顱巻を〆めまして病人と見えましたが、奥の炉のふちに立膝をしてだらしなく、こう額に長煙管をついて、骨が抜けたように、がっくり俯向いておりましたが。」 ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・、見ているのも妙だ、一人は三十前後の痩せがたの、背の高い、きたならしい男、けれどもどこかに野人ならざる風貌を備えている、しかしなんという乱暴な衣装だろう、古ぼけた洋服、ねずみ色のカラー、くしを入れない乱髪! 一人は四十幾歳、てっぺんがはげて・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・とごま白の乱髪に骨太の指を熊手形にさしこんで手荒くかいた。 石井翁は綿服ながら小ザッパリした衣装に引きかえて、この老人河田翁は柳原仕込みの荒いスコッチの古洋服を着て、パクパク靴をはいている。「でも何かしておられるだろう。」と石井翁は・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・それはたいてい垢じみた着物をきて、頭を乱髪にした地方の文学青年だった。堂々と玄関を構えてる医者の家へ、ルンペンか主義者のような風態をした男が出入するのを、父は世間態を気にして、厭がったのは無理もなかった。そこで青年たちが来る毎に、僕は裏門を・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・兜はなくて乱髪が藁で括られ、大刀疵がいくらもある臘色の業物が腰へ反り返ッている。手甲は見馴れぬ手甲だが、実は濃菊が剥がれているのだ。この体で考えればどうしてもこの男は軍事に馴れた人に違いない。 今一人は十八九の若武者と見えたけれど、鋼鉄・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫