・・・自分は、今この覚え書の内容を大体に亘って、紹介すると共に、二三、原文を引用して、上記の疑問の氷解した喜びを、読者とひとしく味いたいと思う。―― 第一に、記録はその船が「土産の果物くさぐさを積」んでいた事を語っている。だから季節は恐らく秋・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・ 二三 ダアク一座 僕は当時回向院の境内にいろいろの見世物を見たものである。風船乗り、大蛇、鬼の首、なんとか言う西洋人が非常に高い桿の上からとんぼを切って落ちて見せるもの、――数え立てていれば際限はない。しかしいちば・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・ 二三 その晩、僕の妻のところへ、井筒屋から御馳走を送って来たし、またお袋と吉称と新芸者とが遊びに来た。「あなたはどこにお勤めでしたの?」とは、お袋が異様な問いであった。「わたしはそんな苦労人じゃアございませ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・馬懼れて乗らず。二三の人、船と岸とにあって黙してこれを見る。馬ようやく船に乗りて船、河の中流に出ずれば、灘山の端を離れてさえさえと照る月の光、鮮やかに映りて馬白く人黒く舟危うし。何心なくながめてありしわれは幾百年の昔を眼前に見る心地して一種・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・ 二人は間を二三間隔てて糸を垂れている、夏の末、秋の初の西に傾いた鮮やかな日景は遠村近郊小丘樹林を隈なく照らしている、二人の背はこの夕陽をあびてその傾いた麦藁帽子とその白い湯衣地とを真ともに照りつけられている。 二人とも余り多く話さ・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 吉田は院庭の柵をとび越して二三十歩行くなり、立止まって引金を引いた。 彼は内地でたび/\鹿狩に行ったことがあった。猟銃をうつことにはなれていた。歩兵銃で射的をうつには、落ちついて、ゆっくりねらいをきめてから発射するのだが、猟にはそ・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
ボオドレエルに就いて「ボオドレエルに就いて二三枚書く。」 と、こともなげに人々に告げて歩いた。それは、私にとって、ボオドレエルに向っての言葉なき、死ぬるまでの執拗な抵抗のつもりであった。かかる終局の告白・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・すなわち三四台の週期で、著しい満員車が繰り返され、それに次ぐ二三台はこれに踵を接して、だんだんに空席の多いものになる。そうして再び長い間隔を置いて、また同じ事が繰り返されるのである。 以上は、事がらをできるだけ簡単に抽象して得られた理論・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・――明治四三、七、二三『東京朝日新聞』―― 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・例を挙げて二三を語ればすぐに合点が行く。古い話であるが昔しの人は劇の三統一と云う事を必要条件のように説いた。ところが沙翁の劇はこれを破っている。しかも立派にできている。してみると統一が劇の必要であると云う趣味から沙翁の作物を見れば失望するに・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
出典:青空文庫