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・・・僕は君臣、父母、夫婦と五倫部の話を読んでいるうちにそろそろ睡気を感じ出した。それから枕もとの電燈を消し、じきに眠りに落ちてしまった。―― 夢の中の僕は暑苦しい町をSと一しょに歩いていた。砂利を敷いた歩道の幅はやっと一間か九尺しかなかった・・・
芥川竜之介
「死後」
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・・・同じ書は『心学五倫書』という題名のもとに無署名で刊行されていた。初めは熊沢蕃山が書いたと噂されていたが、蕃山自身はそれを否定し、古くからあったと言っている。惺窩の著と言われ始めたのは、その後である。しかるに他方には『本佐録』あるいは『天下国・・・
和辻哲郎
「埋もれた日本」