・・・こういう意味から言えば、新聞記事に現われた除幕式は純然たる概念的公式的の除幕式であって、甲のものと、乙のものとは人名などの活字面が少しちがうだけであって、どれもこれも具象的内容においては全く同じものである。それだから、記者が列席もしないのに・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・文芸に従事するものはこの意味で後世に伝わらなくては、伝わる甲斐がないのであります。人名辞書に二行や三行かかれる事は伝わるのではない。自分が伝わるのではない。活版だけが伝わるのであります。自己が真の意味において一代に伝わり、後世に伝わって、始・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・支那の成語を用うるものにして、こは成語を用いたるがために興あるもの、または成語をそのままならでは用いるべからざるものあり。支那の人名地名を用い、支那の古事風景等を詠ずる場合はもちろん、わが国のことをいう引合いに出されたるも少からず。その句、・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 十月二十五日から三月十八日 おらおっちぬよ、そんけ乗ったら、この年で…… これは、革命後ロシアではいろんな町名が変えられ、それが大抵世界のプロレタリアート革命運動に関係のある年月日、人名などを揶揄ったレーニングラード人の笑話である。・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・芸術運動が高まって綜合雑誌『ナップ』が発刊されていた頃、山田清三郎・川口浩両氏によって編輯されたプロレタリア文芸辞典について、試みにハの部を索いて見ると、パルナシアンという字はあるが、バルザックという人名は見当らず、葉山嘉樹はあってバルザッ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・「――あの人名がわるいんですよ」「へえ――誰にきいて」「だって、あんな規知なんて名つけるから、逆さになっちゃったんでしょう」「馬鹿仰云い!」 二人は声を揃えて笑った。「ああ、あなたに見せるものがある」 尚子は、自・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・「なに、教師をしていると、人名や地名の説明を求められますから、この位な本がないと、心細いのです。」 F君と私とは会話辞書の話をした。Meyer と Brockhaus との得失を論ずる。こう云うドイツの本が Larousse や B・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫