・・・これにてらてらと小春の日の光を遮って、やや蔭になった頬骨のちっと出た、目の大きい、鼻の隆い、背のすっくりした、人品に威厳のある年齢三十ばかりなるが、引緊った口に葉巻を啣えたままで、今門を出て、刈取ったあとの蕎麦畠に面した。 この畠を前に・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・これは附添の雑仕婦であったが、――博士が、その従弟の細君に似たのをよすがに、これより前、丸髷の女に言を掛けて、その人品のゆえに人をして疑わしめず、連は品川の某楼の女郎で、気の狂ったため巣鴨の病院に送るのだが、自動車で行きたい、それでなければ・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・ 二三軒隣では、人品骨柄、天晴、黒縮緬の羽織でも着せたいのが、悲愴なる声を揚げて、殆ど歎願に及ぶ。「どうぞ、お試し下さい、ねえ、是非一回御試験が仰ぎたい。口中に熱あり、歯の浮く御仁、歯齦の弛んだお人、お立合の中に、もしや万一です。口・・・ 泉鏡花 「露肆」
一「旦那さん、旦那さん。」 目と鼻の前に居ながら、大きな声で女中が呼ぶのに、つい箸の手をとめた痩形の、年配で――浴衣に貸広袖を重ねたが――人品のいい客が、「ああ、何だい。」「どうだね、おいし・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・何の事はない、緑雨の風、人品、音声、表情など一切がメスのように鋭どいキビキビした緑雨の警句そのままの具象化であった。 私が緑雨を知ったのは明治二十三年の夏、或る温泉地に遊んでいた時、突然緑雨から手紙を請取ったのが初めてであった。尤もその・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・十 二葉亭の風人品 誰やらが二葉亭を評して山本権兵衛を小説家にしたような男だといった。海軍問題以来山本伯の相場は大分下落し、漸く復活して頭を擡上げ掛けると、忽ち復た地震のためにピシャンコとなってしまったから、文壇の山本伯とい・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・文品の高い、低いは、即ち、人品の高い、低いに他ありません。 作為なく、詐りなくして、表現されたものが、即ちその人の真の文章であります。しかしながら、たとえ作為を用いても、また、詐ろうとしても、そうした文章には、自然なところがないから、ほ・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・ことにこの盲人はそのむさくるしい姿に反映してどことなく人品の高いところがあるので、なおさら自分の心を動かした、恐らく聴いている他の人々も同感であったろうと思う。その吹き出づる哀楽の曲は彼が運命拙なき身の上の旧歓今悲を語るがごとくに人々は感じ・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・そしてその人品はどう見ても上っすべりしていないのである。 しかしもとより生活の趣味がモダンでなくてはならぬというのではない。そういう生活様式の新旧に宗教が障げられるものでないことをいうのにすぎない。 信仰の中心はそういう様式上の問題・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・点が行かず、痩せて居れども強そうに、今は貧相なれども前には人の上に立てるかとも思われ、盗賊の道の附入りということを現在には為したのなれど、癇癖強くて正しく意地を張りそうにも見え、すべて何とも推量に余る人品であった。その不気味な男が、前に・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
出典:青空文庫