・・・この四郎さんは私と仲よしで、近いうちに裏の田んぼで雁をつる約束がしてあったのです、ところがその晩、おッ母アと樋口は某坂の町に買い物があるとて出てゆき、政法の二人は校堂でやる生徒仲間の演説会にゆき、木村は祈祷会にゆき、家に残ったのは、下女代わ・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・ 西山も、帰るとスパイにつき纒われる仲間の一人だ。その西山が胸を悪くしてO市から帰っていた。 彼は、もと、若手の組合員だった鍋谷や、宗保や、後藤の顔を見た。それから彼等の小学校の先生だった六十三の、これも先生をやめてから、若い者・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・この金八が若い時の事で、親父にも仕込まれ、自分も心の励みの功を積んだので、大分に眼が利いて来て、自分ではもう内ないない、仲間の者にもヒケは取らない、立派な一人前の男になったつもりでいる。実際また何から何までに渡って、随分に目も届けば気も働い・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・別の監房にいる俺たちの仲間も、帰えりには片足を引きずッて来たり、出て行く時に何んでもなかった着物が、背中からズタ/\に切られて戻ってきたりした。「やられた」 と云って、血の気のなくなった顔を俺たちに向けたりした。 俺たちはその度・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・日頃懇意な植木屋が呉れた根も浅い鉢植の七草は、これもとっくに死んで行った仲間だ。この旱天を凌いで、とにもかくにも生きつづけて来た一二の秋草の姿がわたしの眼にある。多くの山家育ちの人達と同じように、わたしも草木なしにはいられない方だから、これ・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・あの仲間へ這入ってこの腕を上げ下げして、こちとらの手足の中にある力を鉄の上に加えて見たい。あの目の下に見えている頑強な、固い、立派な鉄の上に加えて見たい。なんだってここに立って両手を隠しに入れていなくてはならないのだろう。」 その時どう・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・「どうぞ、これから私をもお前さんたち二人の仲間に入れておくれ。そして三人で本当の友だちになりたい。」 こう言って、ピシアスとデイモンの手をとったということです。 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・ スバーは、此他もう少し高等な生きものの中にも一人の仲間を持っていました。ただ、その仲間と云うのも、どんな風な仲間と云ってよいのか、一口で云うのは難しいことでした。何故なら、彼女のその仲間は、話が出来ました。彼に話しが出来ることが、却っ・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・三兄は、決してそのお仲間に加わらず、知らんふりして自分の席に坐って、凝ったグラスに葡萄酒をひとりで注いで颯っと呑みほし、それから大急ぎでごはんをすまして、ごゆっくり、と真面目にお辞儀して、もう掻き消すように、いなくなってしまいます。とても、・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・貴族仲間の禁物は退屈と云うものであるに、ポルジイはこの女と一しょにいて、その退屈を感じたことが、かつてない。ドリスはフランス語を旨く話す。立居振舞は立派な上流の婦人であって、その底には人を馬鹿にした、大胆な行を隠している。ピアノを上手に弾い・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫