・・・……私、ほんとに伊香保では、酷い、情ない目に逢ったの。 お前さんに逢って、皆忘れたいと思うんだから、聞いて頂戴。……伊香保でね――すぐに一人旦那が出来たの。土地の請負師だって云うのよ、頼みもしないのに無理に引かしてさ、石段の下に景ぶつを・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・則深川仲町には某楼があり、駒込追分には草津温泉があり、根岸には志保原伊香保の二亭があり、入谷には松源があり、向島秋葉神社境内には有馬温泉があり、水神には八百松があり、木母寺の畔には植半があった。明治七年に刊行せられた東京新繁昌記中に其の著者・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ 当時、まだ若かった平塚らいてう氏と森田草平氏とが、ダヌンツィオの影響で、恋愛は死を超えるものか、死が恋愛を負かすものであるか、という、今日から見ると稚げとも思える一つの観念的な試みのために伊香保の雪の山中に行ったりした事件に対し、漱石・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫