・・・その家を畑ごとお前にやるから、早速行って住まうが好い。今頃は丁度家のまわりに、桃の花が一面に咲いているだろう」と、さも愉快そうにつけ加えました。 芥川竜之介 「杜子春」
・・・ 水車場には、知らぬ人が入って住まうようになりました。「若いうちに、うんと働いて、年をとってから楽な暮らしをしたいものだ。」と、二番めの夫はいいました。 彼女も、また、そう思いました。「ほんとうに、そうでございます。」と、女・・・ 小川未明 「ちょうと三つの石」
十二月八日の晩にかなり強い地震があった。それは私が東京に住まうようになって以来覚えないくらい強いものであった。振動週期の短い主要動の始めの部分に次いでやって来る緩慢な波動が明らかにからだに感ぜられるのでも、この地震があまり・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・そして東京で私の住まう団子坂上の家の向いに来て下宿した。素と私の家の向いは崖で、根津へ続く低地に接しているので、その崖の上には世に謂う猫の額程の平地しか無かった。そこに、根津が遊郭であった時代に、八幡楼の隠居のいる小さい寮があった。後にそれ・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・清武の家は隣にいた弓削という人が住まうことになって、安井家は飫肥の加茂に代地をもらった。 仲平は三十五のとき、藩主の供をして再び江戸に出て、翌年帰った。これがお佐代さんがやや長い留守に空閨を守ったはじめである。 滄洲翁は中風で、六十・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫