・・・ 文学の面でも、最近、明治からの現代古典を体系的に見直してゆこうとする一つの傾向があらわれている。現代文学は、肉体文学も、社会小説も、実名小説も、きょうのわれわれの生活のこころにふれるものでないから、というのが一つの動因である。だけ・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・なぜなら、もう日本の民主化の第一歩は、勤労者階級が半封建的な軍国主義的な支配階級の思想体系――文化の影響から、自分の階級の生活感情、理性の全部を解放し、新しい形であらわれて来ているファシズムとたたかう方向においてふみだされた。ここにおいて必・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・p.243○彼の作品の冗漫性にある意味――事件の骨骼の下に、対話の肌の下にこうも 神経を一貫したような物語の体系をもたない。p.245○限界のない人間は永遠のものに到達出来るけれども、模索することは出来ない p.246 芸術・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・文学においても現実の社会状態の中で個性が粉砕されること、体系を失うことがよく反映しているので、未来の文学は社会的土台の問題の解決とともに性格をとりもどすという任務さえある訳ですネ」〔一九三五年一月〕・・・ 宮本百合子 「不満と希望」
・・・思想の体系が一つの物体と化して撃ち合う今世紀の音響というものは、このように爆薬の音響と等しくなったということは、この度が初めでありまた最後ではないだろうかと。それぞれ人人は何らかの思想の体系の中に自分を編入したり、されたりしたことを意識して・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・これが、この花園の中で呼吸している肺臓の特種な運動の体系であった。 五 ここの花園の中では、新鮮な空気と日光と愛と豊富な食物と安眠とが最も必要とされていた。ここでは夜と雲とが現われない限り、病舎に影を投げかけるも・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・栖方は、その中心の渦中に身をひそめて呼吸をして来たのであってみれば、父と母との争いのどちらに想いをめぐらせるべきか、という相反する父母二つの思想体系にもみぬかれた、彼の若若しい精神の苦しみは、想像にかたくない。同一の問題に真理が二つあり、一・・・ 横光利一 「微笑」
・・・かくして作られたる体験の体系は、一つの新しい生として創造の名に価する。 ただしかし、その体験が浅薄なゆえに偽りを含んでいるとしたら―― 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・先生はすでに独特な体系を築き上げている。形而上学でも倫理学でも宗教学でもすべて先生の独特な原理で一貫している。僕たちはその講義を聞いて来たのだ。よく解ったとはいえないけれども、よほど素晴らしいもののように思う。しかし自分たちが敬服したのは、・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
・・・そこには過去現在を通じて数限りのない人間がその生命を投入し、その精神をささげて実現に努力した大いなる「価値の体系」がある。それは我々の現前に輝き、我々が心をもって動く限り、我々を指導する。この価値の体系の創造者こそは「人類」である。それは真・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫