・・・赤坊は泣きづかれに疲れてほっぽり出されたままに何時の間にか寝入っていた。 居鎮まって見ると隙間もる風は刃のように鋭く切り込んで来ていた。二人は申合せたように両方から近づいて、赤坊を間に入れて、抱寝をしながら藁の中でがつがつと震えていた。・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ こう暴れているうちにも自分は、彼奴何時の間にチョーク画を習ったろう、何人が彼奴に教えたろうとそればかり思い続けた。 泣いたのと暴れたので幾干か胸がすくと共に、次第に疲れて来たので、いつか其処に臥てしまい、自分は蒼々たる大空を見上げ・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・女は一寸復締りをした。少し許りの土間を過ぎて、今宵の不思議な運を持来らした下駄と別れて上へあがった。女は何時の間に笠を何処へ置いたろう、これに気付いた時は男は又ギョッとして、其のさかしいのに驚いた。板の間を過ぎた。女は一寸男の手を上げた。男・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ と言って、三吉はおげんの側へ寄った。何時の間に屋外へ飛出して行って、何時の間に帰って来ているかと思われるようなのは、この遊びに夢中な子供だ。「ほんに」とおげんは甥というよりは孫のような三吉の顔を見て言った。「そう言えば三吉は何をし・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・「どうして、田舎娘だなんて、真実に馬鹿に成らない……人の足の太いところなんか、何時の間に見つけたんだろう……」 醜いほど大きな足をそこへ投出しながら、言って見た。 仙台で出来た同僚の友達は広瀬川の岸の方で比佐を待つ時だった。漸く・・・ 島崎藤村 「足袋」
・・・勘次は初め秋三と顔を合すのが不快さに行きたくはなかったが、それは却って秋三を恐れているようでいけないし、とうとう何時の間に決心したのか自分ながら分らずに、ただ母親に曳かれる気持で小屋へ来た。「おい、喜びやれ、往生しよったぞ。」 秋三・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫