・・・北海道生れの友人に、その事を言ったら、その友人は私の直観に敬服し、そのとおりだ、北海道は津軽海峡に依って、内地と地質的に分離されているのであって、むしろアジア大陸と地質的に同種なのである、といろいろの例証をして、くわしく説明してくれた。私は・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・これは、カントの例証です。僕は、現代の日本の政治界の事はちっとも知らないのです。」「しかし、多少は知っていなくちゃいけないね。これから、若い人みんなに選挙権も被選挙権も与えられるそうだから。」と越後は、一座の長老らしく落ちつき払った態度・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・やらが三つも四つも重って起っても、或る強固な意志のために、一向に恋愛が成立しないという事の例証である。ただもう「ふとした事」で恋愛が成立するものとしたら、それは実に卑猥な世相になってしまうであろう。恋愛は意志に依るべきである。恋愛チャンス説・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・女性の皮膚感触の過敏が、氾濫して収拾できぬ触覚が、このような二、三の事実からでも、はっきりと例証できるのである。或る映画女優は、色を白くする為に、烏賊のさしみを、せっせとたべているそうである。あくまで之を摂取すれば、烏賊の細胞が彼女の肉体の・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・たとえば、宵の私の訪問をもてなすのに、ただちに奥さんにビールを命ずるお医者自身は善玉であり、今宵はビールでなくブリッジいたしましょう、と笑いながら提議する奥さんこそは悪玉である、というお医者の例証には、私も素直に賛成した。奥さんは、小がらの・・・ 太宰治 「満願」
・・・ この考えを実証すべき例証をここに列挙することは略しても、こういう考えがそれ自身なんら新しいものでないことは読者に明らかなことである以上、現在の考察を進める上にたいした支障はないであろう。自分のここで言おうとすることは、そういう考えを承・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・のようなものであるという例証にはなるかと思う。もう少し専門学術的な書物になると、特にドイツなどには実にいろいろの特殊問題に対して、それぞれ便利な書物ができているのに驚くことがある。それにしても、題目の種類によっては、少なくも日本の本屋で捜そ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ しかしこの玉虫の一例は、われわれがわれわれの現在にこびり付いた過去の一片をからだのどこかにくっつけて歩いているということのいい例証にはなるであろう。 もしもその日の夕刊に、吉祥寺か染井の墓地である犯罪の行われた記事が出たとしたら、・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・これらは例証するまでもないことである。 てにはは日本語に特有なものである。「わが国はてには第一の国」である。西洋の言語学者らはだれもこのおそるべき利器の威力を知らない。短歌でもそうであるが、俳句においてこの利器はいっそうその巧妙な機能を・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・芭蕉のごときはそれがかなりよくできる人であったことは以上の乏しい例証からもうかがわれる。芭蕉の辞世と称せられる「夢は枯れ野をかけ回る」という言葉が私にはなんとなくここに述べた理論の光のもとにまた特別な意味をもって響いて来るのである。彼はこの・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫