・・・羊肉の串焼を高く捧げて、一人の助手がそれを恭々しくぬいては客に供する、実にこと/″\しい。そのうちに、この家独特のロシアの貴族? の一団によるバイオリンやヴオーカルがはじまり、婦人の出る時は、その度々電燈が消された――踊り手だけを照らしつゝ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・口実を、人民自ら呈供するほど、今日の日本の民衆は無智であるだろうか。或る種の似而非政治家は、食糧その他の人民管理委員会というものを、さも革命的なもののように誇張して、日本の民主化の今日の段階を無視した二重権力というような理論をつくり上げてい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・しかしこれは新たなる性命に犠牲を供するのである。わたくしはこんな分疏をして、人の誚をかえりみない。 わたくしの意中にいわんと欲する一事があった。わたくしは紙を展べて漫然空車と題した。題しおわってなんと読もうかと思った。音読すれば耳に・・・ 森鴎外 「空車」
出典:青空文庫