・・・二十五歳までに青年がその童貞を保持するに耐えないという理拠があるであろうか。また本人の一生の幸福から見て、そうすることが損失であろうか。私は経験から考えてそうは思われない。女を知ることは青春の毒薬である。童貞が去るとともに青春は去るというも・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ほんとは、自分の掠奪した植民地を保持するために戦争をやっていたのだ。独逸の帝国主義者は、又、イギリスやフランスの多過ぎる植民地を、公平に分配をやり直そうとして戦っていたのであった。この次に来る戦争に於ても、又こういうことが起るであろう。そう・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・井伏さんの文学が十年一日の如く、その健在を保持して居る秘密の鍵も、その辺にあるらしく思われる。 旅行の上手な人は、生活に於ても絶対に敗れることは無い。謂わば、花札の「降りかた」を知って居るのである。 旅行に於て、旅行下手の人の最も閉・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・この人はジューリングと一緒に気球で成層圏の根元に近づき一時失神しながらも無事に着陸したという経験をもっていて、搭乗気球としての最高のレコードの保持者であった。鉄道幹線から分れた田舎廻りの支線、いわゆるクラインバーンの汽車の呑気なのに驚いたの・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・もし充分気力が強くて、いわゆる腹がしっかりしていて、その緊張状態を一様に保持し得られる場合にはなんでもない。しかしからだの病弱、気力の薄弱なためにその緊張の持続に堪え得ない時には知らず知らず緊張がゆるもうとする。これを引き締めようとする努力・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・世態人情の変化は漸く急激となったが、しかし吉原の別天地はなお旧習を保持するだけの余裕があったものと見え、毎夜の張見世はなお廃止せられず、時節が来れば桜や仁和賀の催しもまたつづけられていた。 わたくしはこの年から五、六年、図らずも旅の人と・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・殺すという言葉には、殺されるものに対して、殺すという立場において、自己の生存保持の意識が潜在している。鈴木文史朗はついこの間アメリカへ行ってリーダーズ・ダイジェスト本社の立派なことを日本に吹聴したが、彼はアメリカで何を学び、どう語ることを学・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・政府は自身の権力を保持したいために、私ども日本人すべてが持っている新しいいろいろの可能性へのきりかえを、非常に嫌っています。それはこんどの憲法を見てもよくわかることですけれども、ああいう「主権在民」の中途はんぱな扱いかたは、私どもが民主を求・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・その勢力は、表面ブルジョア民主主義の建設をいい、国際平和のスローガンをかかげ、国内の抵抗力をよわめて、自分の権力保持に役立つ他国の勢力と結合し、そのために役立つことで、存続の保証を得ようとしている。日本のすべての心に戦争の恐怖があり、ファシ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ H・G・ウエルズが一九三四年にモスクを訪ねた時、むこうの作家たちにベルリン、ウィーン、ローマの各ペンクラブが、どんなにファシストの文化政策に対して「文芸の自由と品位を保持するために」たたかったかということを語っている記事を、『セルパン・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
出典:青空文庫