・・・第一僕の承認を経ずに僕の脚を修繕する法はない。……」 半三郎のこう喚いているうちに下役はズボンの右の穴へ馬の脚を一本さしこんだ。馬の脚は歯でもあるように右の腿へ食らいついた。それから今度は左の穴へもう一本の脚をさしこんだ。これもまたかぷ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・君看双眼色不語似無愁 3 一等戦闘艦×× 一等戦闘艦××は横須賀軍港のドックにはいることになった。修繕工事は容易に捗どらなかった。二万噸の××は高い両舷の内外に無数の職工をたからせたまま、何度もいつに・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・――御修繕中でありました。神社へ参詣をして、裏門の森を抜けて、一度ちょっと田畝道を抜けましたがね、穀蔵、もの置蔵などの並んだ処を通って、昔の屋敷町といったのへ入って、それから榎の宮八幡宮――この境内が、ほとんど水源と申して宜しい、白雪のとけ・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ この本堂の内陣の土蔵の扉にも椿岳の麒麟と鳳凰の画があったそうだが、惜しい哉、十数年前修繕の際に取毀たれてしまった。 円福寺の方丈の書院の床の間には光琳風の大浪、四壁の欄間には林間の羅漢の百態が描かれている。いずれも椿岳の大作に数う・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・床屋が、他人の頭の格好を気にしながら、鋏をカチ/\やっているうちに、自分の青年時代が去り、いつしか、その頭髪が白くなって、腰の曲った時が至る如く、また、靴匠が仕事場に坐って、他人の靴を修繕したり、足の大きさなどを計っているうちに、いつしか、・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・また建物といっては、いずれも古びていて、壊れたところも修繕するではなく、烟ひとつ上がっているのが見えません。それは工場などがひとつもないからでありました。 町はだらだらとして、平地の上に横たわっているばかりであります。しかるに、どうして・・・ 小川未明 「眠い町」
・・・運転手は車の修繕道具で彼の頭を撲った。割れて血が出た。彼は卒倒した。 運転手は驚いて、彼の重いからだを車の中へかかえ入れた。 そして天下茶屋のアパートの前へ車をつけると、シートの上へ倒れていた彼はむっくり起き上って、袂の中から五円紙・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・鈴蘭燈やシャンデリヤの灯や、華かなネオンの灯が眩しく輝いている表通りよりも、道端の地蔵の前に蝋燭や線香の火が揺れていたり、格子の嵌ったしもた家の二階の蚊帳の上に鈍い裸電燈が点っているのが見えたり、時計修繕屋の仕事場のスタンドの灯が見えたりす・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ ある日雨漏りの修繕に、村の知合の男を一日雇ってきた。彼は二間ほどもない梯子を登り降りするのに胸の動悸を感じた。屋根の端の方へは怖くて近寄れもせなかった。その男は汚ない褌など露わして平気でずぶずぶと凹む軒端へつくばっては、新しい茅を差し・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・器械に狂いの生じたのを正作が見分し、修繕しているのらしい。 桂の顔、様子! 彼は無人の地にいて、我を忘れ世界を忘れ、身も魂も、今そのなしつつある仕事に打ちこんでいる。僕は桂の容貌、かくまでにまじめなるを見たことがない。見ているうちに、僕・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
出典:青空文庫