・・・はじめにお値段を決めておいてよろしかったらお研ぎいたしましょう。」「そうですか。どれだけですか。」「こちらが八銭、こちらが十銭、こちらの鋏は二丁で十五銭にいたしておきましょう。」「ようござんす。じゃ願います。水がありますか。持っ・・・ 宮沢賢治 「チュウリップの幻術」
・・・玉子を持って一太が転んだり、値段を間違えたりするといけないからであった。こうと思う家の前へ来ると、ちょっと手前でツメオは一太にしっかり風呂敷包みを持たせた。片方は黄色の風呂敷で、片方は赤い更紗であった。黄色い方には一つ八銭の玉子だけ、赤い方・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 私どもは芸術家にたのんで同じ値段で、ずっといいソヴェト型がつくれるのに。」 ルイジョフは、ズボンのポケットへ両手を突こんで、インガの積極的な研究的な提案を皮肉った。そして、彼女に当てこすって、傍にいるソモフに大声でからんだ。「・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・しかしその娘さん達は自分の働いたお金で食物を得て行ける年齢ではないし、また食物そのものの値段が、今日ではもう法外なものになっているから、お父さん達が正当な働きで得て来るお金では十分食べて行くことの出来ないような時になっています。よいと云って・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・米、味噌、醤油のような生活必需物資の値段は、私たちが使えるお金に制限をうけてから、グッと三倍に上りました。勤めにゆくため、学校へゆくため、是非乗らなければならない省線、都電、バスなど、交通費もみんな三倍になりました。今の配給だけで、やって行・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・然るところその伽羅に本木と末木との二つありて、はるばる仙台より差下され候伊達権中納言殿の役人ぜひとも本木の方を取らんとし、某も同じ本木に望を掛け互にせり合い、次第に値段をつけ上げ候。 その時横田申候は、たとい主命なりとも、香木は無用の翫・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・然るところその伽羅に本木と末木との二つありて、はるばる仙台より差下され候伊達権中納言殿の役人ぜひとも本木の方を取らんとし、某も同じ本木に望を掛け、互にせり合い、次第に値段をつけ上げ候。 その時相役申候は、たとい主命なりとも、香木は無用の・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・賃銭はあとでつけた値段の割じゃ」こう言っておいて、大夫は客を顧みた。「さあ、お二人ずつあの舟へお乗りなされ。どれも西国への便船じゃ。舟足というものは、重過ぎては走りが悪い」 二人の子供は宮崎が舟へ、母親と姥竹とは佐渡が舟へ、大夫が手をと・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ お佐代さんが国から出た年、仲平は小川町に移り、翌年また牛込見附外の家を買った。値段はわずか十両である。八畳の間に床の間と廻り縁とがついていて、ほかに四畳半が一間、二畳が一間、それから板の間が少々ある。仲平は八畳の間に机を据えて、周・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・彼らはただその壺の値段を見る。その壺で儲けたある骨董屋の事を考える。同様にまた彼らが一人の美女を見る場合にも、この女の容姿に盛られた生命の美しさは彼らには無関係である。彼らはただ肉欲の対象として、牛肉のいい悪いを評価すると同じ心持ちで、評価・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫