・・・祖父は、この次女を偏愛している様子がある。次女は、一家中で最もたかぶり、少しの功も無いのに、それでも祖父は、何かというと此の次女に勲章を贈呈したがるのである。次女は、その勲章をもらうと、たいてい自分の財布の中に入れて置く。祖父は、次女にだけ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・又、子のない夫婦らしい偏愛を示すかと、自ら面栄ゆい感もある。 今夜、どうか、ひどく泣かないでくれるとよいと皆が希って居る。 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・ 先生は自分の子供に対しても偏愛を非常に恐れた。親の愛は平等であるべきだ。もしそれを二、三にするくらいならむしろ平等に愛しない方がいい。この事は不断に厳密な自己省察を必要とするのであるが、先生はこの点について非常に注意を払っていた。そう・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫