・・・代物である通り、ブルジョア世界観によって偽善的に、甘ったるく装われ、その実は血を啜る残虐の行われている「子供の無邪気さ、純真さ」の観念に対してこそ、プロレタリアートは「知慧の始り」である憎悪をうちつけるのではなかろうか。実際の場合に、人道主・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・若さは無意識のうちにこんにちの姑息ないいくるめや偽善をもの足りなく思っていて、「凱旋門」に描かれているあからさまな破壊とそれをしのぐ人間精神にひかれたのではなかったろうか。 三 遊廓は、封建的な婦女の市場だ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・彼は、人間性の課題としての性の解放を、上流の男女の冷淡で偽善的な情事や打算のある放恣と、はっきり区別しないではいられなかった。この人生において、単純率直に求めるものを求めて行動し、そこに精神と肉体との分裂をもたない人物。そういう男性をローレ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・は、知られているとおり、十六歳の学問好きな、そして母から伝えられた根気よさと自立を愛する精神をもつ少女ジュヌヴィエヴが、第一次のヨーロッパ大戦前のフランスの中流生活の常套の中で、俗っぽく偽善的な父親が強いている「良俗」に反抗し、自分の独立と・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・戦争、軍隊生活そのものの野蛮さ、空虚さ、偽善に人間としての憤りを深くめざまされながら、それについては手紙に書くことも日記にかくことも許されなかった人々。天皇の名によって行われていたスパイと憲兵の絶対的な軍国主義権力が崩れて三年四年たってみる・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・嘘偽や偽善を身につけまいとする潔癖も、文化の本質にある美しい感覚の宝である。常に事物の本質をわかって行きたいと思う心持こそ、文化の核心の精髄であるとともに、人間の人間たる所以であると思う。 私たちが謙遜な心で今日の生活の諸相を省みたとき・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・実際それは、偽善家の面皮を正直という小刀で剥いでやった、という意味で、重大な意義を持つに違いない。あるいはまた幻影に囚われた理想家を現実に引きもどした、という意味で。――しかしそれは決して以前よりも深い真実を捕えてくれたわけでなかった。それ・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・そうしてその際、自欺の衣を剥ぎ偽善の面をもぐような、思い切った皮肉の矢を痛がる所へ射込む、ということに、知らず知らず興味を感じていないとは言えない。 私はかつてこのような興味に強く支配されていたこともあった。そのころはすべての事物に醜い・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・「彼は『新生』の主人公ほど老獪な偽善者に出逢ったことはなかった」。藤村はそれを取り上げて、「私があの『新生』で書こうとしたことも、その自分の意図も、おそらく芥川君には読んでもらえなかったろう」と嘆いている。 ところで私もまた、『新生』が・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
・・・犠牲心なき忠は偽善である。 現代の道徳は霊的根底を超越して偽善を奨励す。冷ややけき顔に自ら「理性の権化」と銘する人はこの偽善を社会に強い、この虚礼をもって人生を清くせんとす。人生は厳格である。人間の向上はまじめなる努力を要する。仮面に精・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫