・・・それにもかかわらず、少し勉強しすぎた道太は、この月こそ、旅で頭脳の保養をしようと思っていたので、毎日辰之助に電話をかけてもらいながら、つい出るのを億劫にしていた。 そんな話をしているところへ、届けてきた月並を、お絹は菓子器に盛って、道太・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・のみならずその当時は交通が非常に不便でありまして、東京から大阪へちょっと手紙一本で呼出されて来て講演をすると云うようなことすら、できないとは限りませんが、なかなか億劫でこう手軽には行きません。来るにしても駕籠に揺られて五十三次を順々に越すの・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ 私には写真のあらましも想像のつくことであったし、そういう特殊な役目のひとにはそれまで厄介になっていず、そういうことまでして、文章の方により活々と描かれている風景の小写真を貰うのが気億劫であった。友達のこまかい親切の一部がそうやって途中・・・ 宮本百合子 「写真」
・・・ 谷崎潤一郎がこの作品に触れての感想で、自分も年を取ったせいか描写でゆく方法が億劫になって来たという意味の言葉を洩し、創作態度としての物語への移行が、作家としての真の発展を意味しないことを言外にこめている。当の作者がそのような自覚に立っ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・自分の手紙を書くのも億劫な人かも知れない。どんなにマルクスが偉くてもマルクスの生きていた時代ではありません。どんなに小さくても、私どもはその「資本論」を読んで自分たちの生活を改善して行くことができる、そういう条件下におかれている小さい一人一・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
出典:青空文庫